食肉の危害と対応策、HACCP対応

2013/05/25 7:06 に 松本リサ が投稿
カリフォルニアのレストランに新しい食品安全基準が設けられ、生鮮食肉を店内で調理する場合は温度検査が義務づけられた。挽肉は芯温、華氏157度(摂氏約69.4度)〜155度(摂氏約68.3度)以上で15秒間加熱しなければならない。卵および生卵を含む食品は華氏145度(摂氏約62.8度)以上に、家禽肉、および詰め物をした魚または食肉は、芯温、華氏165度(摂氏約73.9度)以上に加熱しなければならない。これは新しい法律で、電子レンジ調理についても基準を定めている。

日本では96年のO-157事件で、食品の安全性が問題になり、その後ますます対応策が求められている。この問題にたいして有効な手法はHACCPしかなく、生産から、加工、流通、調理、販売に至る一連の過程で、HACCPの対応が始められつつある。では、フードサービスのキッチンにおいて、現在行える方法は何なのだろうか。近い将来、キッチンレベルのHACCPが順次導入されていかなければならないことは間違いが無く、そうならないことには、顧客の安全感を得ることは出来なくなっていく。国レベルでも、厚生省が普及に努力をしている。しかしながらキッチンHACCPの構築には、HACCPの土台となる基本的な衛生規範を構築し、その上で、食材別、メニュー別にHACCPシステムをつくっていかなければならない。これには時間がかかる。そこで、とりあえず、主要食材である食肉について、今、どうしたらいいのかを考えてみる。


食肉の安全性を考えるには、食肉が持っている危害が何かをまず分析するところから始める。「食肉には、食べる人の健康を害する原因を、最初から持っている」と、初めから疑って罹り、その危害は、どうしたら無くせるのかを徹底的に考える、これがHACCPの考え方である。

危害は、3種類ある。生物的危害、化学的危害、物理的危害である。


まず、生物的危害は食中毒を起こす細菌である。微生物といってもたくさんあるのだが、最も問題にしているのは、サルモネラとO-157である。96年の日本全国での食中毒発生状況のデータを見ると、患者数の総計は43,935で、このうち原因がわかった38,664のうち、細菌によるものが38,389に上り、実に99%以上になる。更にその中で、サルモネラがもっとも多く、16,334(細菌原因の42.5%)、そしてO-157も含む病原大腸菌が12,094(細菌原因の31.5%)。この2つの細菌だけで74%にもなっているのである。

こういった背景から、病原性大腸菌とサルモネラが最大のターゲットとなっているのだが、両方とも食肉由来が多く、月別データを見てみると、夏場に圧倒的に多い。そして、この対策として一番有効なのが加熱調理ということになる。だから、カリフォルニアであらためて安全基準が設けられたのである。

この内容を良く見てみると、肉については、ひき肉と、詰め物をした食肉、および家禽肉になっており、ステーキ、ローストビーフなどの切り身、ブロックの調理メニューは含まれていない。なぜならば、食肉についているサルモネラ、病原大腸菌は、肉の中にはいないからである。O-157は、もともとは家畜の腸管にいるもので、それが屠畜の時に外に出て、肉の表面に付着することになる。大腸を屠畜の時にしっかりと縛り、中の汚物が漏れないようにすれば危険性は少なくるなるのだが、屠畜前の生体の皮に付着していることもあり、屠畜には細心の注意が必要とされている。

しかし、これらのバクテリアは、肉の表面に付着している可能性はあるにしても、肉の中に入り込むことはない。ステーキやローストビーフは、どちらもレアーに焼いたとしても、肉の表面は加熱をすることになり、中が生でも安全に食べられることになる。牛肉のタタキでも、表面は焼いてあるから、安全なことになる。但し、タタキをスライスするときのまな板が、生肉をカットしたものと一緒だったとしたら、前にカットをした生肉の表面に食中毒菌が付いていたら、その後スライスをしたタタキに付着してしまうので、問題が出る。

ひき肉が問題なのは、原料にトリミングを使うからで、トリミングは小さい肉の破片であるから、その破片の一つ一つの表面に食中毒菌が付着している可能性は十分にある。それをチョッパーで挽いたら、パティの中に食中毒菌が入り込んでしまう。だから、肉の中心まで、食中毒菌が死滅する温度まで焼かなければならないのである。

しかし、焼けば焼くほど、肉のジューシーさは失われていく。フードサービスでは、安全なものを提供しなければならないのだが、顧客の支持を得るためには、おいしいものも出さなければならない。そのための調理温度のキーポイントが、カリフォルニアの基準でもある。


ところで、O-157の問題が出てくるかなり前、米国のレストランに行くと「グラウンドビーフステーキ」というメニューが必ずあった。牛肉だけをミンチにして、それを手で整形してステーキと同じように焼いたものである。焼き方を指定でき、もちろんレアーもOKだった。このメニューは価格が安く、おいしく、人気だったが、今のようになってしまうと、当然出来ない。ところが、工夫をすれば、今でもグラウンドビーフステーキの「レアー」は出来る。

方法は、刺し身に出来るようなクリーンなブロック肉を、そのままきちんと消毒をしたチョッパーで挽けばいいのである。前の自動車のフォード会長の大好物は、ストリップロインステーキ一枚を、そのままチョッパーで挽いた「グラウンド・ストリップロイン・ステーキ」だったそうだ。

少し前、東京恵比寿のウエスティンホテル一階レストランに行ったら、この方式のグラウンドビーフステーキがあった。メニュー名はハンバーグとしてあるが、オーダーの時に「焼き方は?」と聞いてきたので、ミィデアムレアーと注文した。出て来たら、牛肉だけを挽いたもので、混ぜ物は入っていない。牛肉の味100%のおいしいグラウンドビーフステーキで、ミィデアムレアーの食感と味も良く、うれしくなった。

安全にグラウンドビーフステーキを提供するには、原料のブロック肉の表面を、消毒するか、消毒の臭いの問題があれば、バーナーで表面焼く。こうすれば肉の表面の菌は死ぬ。オーダーが来たらその分だけの量を、消毒をしたまな板とナイフで切り出し、当然消毒をしたチョッパーで挽き、整形して指定の焼き方に焼けばいい。


2番目の危害は、化学的危害で、食肉においては、ホルモン、残留農薬、薬品、添加物などである。これらは家畜を飼育するために使用するようになってきたのだが、天然に存在するもの以外のものを人工的に加える弊害がいろいろと出て来ており、これからますます問題視されていくだろう。プラスチック容器の加温によるホルモン溶出が、生殖機能に問題がある、という研究データも出て来ている。

家畜のコストダウンのために始まった成長促進ホルモン投与は、最終的な食肉への残留量は問題ないとされているのだが、消費者心理としては心配になる。完全に無くすことは難しいだろうが、少ないに越したことはない。キッチンでこれら化学物質を精肉に使うことはないだろうが、原料肉に入っているかどうかを、キッチンで見たり、調べたりは出来ない。その情報は、キッチンレベルでは知ることは出来ない。

こういった危害のことをHACCPでは「従業員で管理できない危害」としてリストすることになっている。ではどうしたらいいかだが、メーカーから情報ともらうしかない。仕入れ先からの情報、バイイングから考えれば、原料仕入れ先を見れる「HACCP的視野と知識」がバイヤーに必要になっているのである。だから、フードサービス企業でのHACCP構築チームの中に、必ず仕入れ担当責任者が入っていなければならないのである。


3番目の危害は、物理的危害で、異物混入である。この原因は、原料と、キッチンレベルに分けることが出来る。原料レベルでは、「従業員で管理できない危害」として、仕入れ担当者が目を光らせなければならないが、キッチンレベルでの異物混入は厨房内でしっかりの管理しなければならない。食肉特有のものとしては、骨、軟骨、筋、獣毛、希に獣医の使った注射針などもある。これの根絶は、出来るだけ多くのクレーム記録を集め、一つ一つ原因を潰していく努力しかない。チェーン店だったら、全ての店のクレームを、どんな小さなものでもいいから、本部に集めるところから始めることだ。同時に、食肉供給業者と密接に努力をしていくことである。


柴田書店「月刊食堂」98/4月号より
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