シンプルにしてみたら

2013/05/24 0:51 に 松本リサ が投稿
ブラックホール、宇宙の果て、といった宇宙物理学の一般読者を対象とした本「ホーキング宇宙を語る」の企画で、本の編集者がホーキング博士に言った「博士、数式が一つ入るごとに、売り上げは半減していきます」

難しい数式が入ることで、本が売れなくなるというのである。これをすぐに理解したホーキング博士の本に出て来る数式は「e=mc2」というアインスタインの誰でも知っている数式一つだけで、大ヒットした。その後続編も出て、これも売れている。シンプルにすることで売れたのだ。

出来たころのビデオデッキにはボタンがたくさんあった。最初の頃は複雑な機械なので、操作スイッチがいろいろあったわけだ。その後一般的になってきたら、次第にスイッチの数が減り、今ではだいぶシンプルな操作ボタンになり、機械が苦手な人にも簡単に使えるようになり、大変なマーケットになってきている。

ある大手電化製品メーカーのコンサルタントをしている人がいて、製品の企画会議で、このボタンのことが問題になった。メーカーの開発者は、ボタン、スイッチ類を減らすことで、一般向けの売り上げを増やそうと計画していたのだが、これにコンサルタントがかみついた「バカをつくるつもりか」と。ボタンを少なくシンプルに動かせるようにすると、使用者(消費者)は頭を使わないようになってしまう。それでなくても世の中バカ・アホが増えているのに、それに大メーカーが拍車をかけるようなことをしていいのか? というわけである。

これは難しい問題で、マーケティングから行けば、シンプルにして売れるようにするのは正しい。マニアックな開発者というのは普通、機能を増やしてかえって複雑にしてしまい、一般の人には使いにくくしてしまうのだが、このメーカーの場合は逆で、むしろなかなかよくわかっている開発者だとも言える。一方このコンサルタントの世の中を嘆く気持ちもわからないではない。しかし、商売、普及といった立場から行けば、シンプルへの方向が正しい。

 

日本のスーパーマーケットの売り場でよくある料理カードだが、しっかりした料理を確かに提案していて、そのままやれば理想的な食卓になるのはよくわかるが、それを実際にやる人はどれほど居るかという疑問がある。最近の主婦は、料理をしない、出来ない、知らない人が増えてきているので、昼食マーケット、総菜、デリカテッセンといったものが急成長してきている。

反面、料理カードを見てそのまま出来るような人は、自分の料理があったり、趣味や楽しさとして料理を勉強している。つまり料理をする人には料理カードはあまり必要は無いのかもしれない。料理をしない人にも料理カードは読まないから必要ではない。ということが考えられる。

この料理カードの意味は、料理教室で教えるような親切ていねいな料理提案という意味なのだが、さて、それならば生鮮素材を拡販する方法は何か無いのかということになる。そこで、シンプルな料理提案はどうか。

 

牛肉のブリスケット(ぶりすけ)という胸の部分の肉があり、味のある部位なのだが、硬いために、肉としてはあまり売れる部位ではなく、加工用に回っていく。米国ではコーンドビーフやパストラミといった製品になる。加工するには漬け込み液や時間、加熱方法など、結構複雑で、一般消費者に出来るものではない。逆に言えば、硬い部位を上手く加工して付加価値を付けるところにメーカーとして面白みがあるところである。

ところが米国でこの部位はそのまま丸ごと肉屋で販売されている。どのように食べるかというと実に簡単な方法がある。薄いブロック状の肉を、スキレットという、日本の家庭にあるホットプレートを深くした電機鍋がどの家庭にもあり、これに放り込み、トマトジュースをたっぷりと肉が十分に隠れるまで入れ、冷蔵庫の底に残っているクズ野菜、ニンジンのヘタと皮、セロリの葉っぱ、ニンニクのかけら、オニオンの残り、といったものを乗せ、そのまま3時間ほど煮込めば出来上がりだ。この料理方法はラベルやPOP等でも教えている。簡単なので、難しい解説にする必要がない。

 

ラム(小羊)の骨付きロースがある。7本分の骨付きロインがブロックになっているのが原材料で、一般的にはこれを一本づつ切り離して3〜4本ぐらいを一つのトレイパックにして販売している。料理方法として、塩コショウをしてフライパンで焼き、残った肉汁にいろいろ入れてソースを作り、付け合わせは何々が合う、といったレシピになっている。

我が家ではブロックのまま買ってくる。フライパンを熱して、塩コショウをしたブロックを放り込んで、両面に焦げ目をつけてから弱火にして蓋をし、しばらく置いてから火を止め、そのままちょっと放っておくと余熱が仕上げをしてくれる。ラムローストが実にシンプルにできてしまう。皿に移して、テーブルナイフで1枚づつ切り出して、私は生姜醤油、子供たちは市販のステーキソースか焼き肉のタレで食べる。7枚分しかないブロックはハイエナのような家族連中であっという間に無くなってしまうのである。

ラムは鮮度が命で、鮮度を保つためには切り身よりもブロックの方が良い。肉屋の方も一枚一枚切り分けるよりもブロックそのまま売ったほうが簡単だし安く売れる。安く、シンプルに、美味しくするには、ラムはブロックなのである。これを提案したらどうか。

 

ダイエット気味の食事でしかも美味しくというのに、鶏肉のスープは実に良い。品質の良い鶏肉の安い部分の手羽先を買ってきて、小さめの土鍋に入れ、水を入れてスープをとる。スープが出来たら鶏肉に半分程度のスープを付けて私以外の家族向けに分け与える。彼らはトマトを使ってイタリア風にしたり、更に鶏肉を入れて洋風の煮込みにしたりして勝手にメニュー化している。私はスープだけをもらい、豆腐か厚揚げと、下仁田ネギとか京野菜といった高級野菜をちょっと入れて「家長のための一人鍋」にして楽しむ。これは白ワインに実によく合う。おいしいスープだけを独り占めするのである。こんなシンプルな提案はいかが?


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