肉を柔らかくする方法

2013/05/25 17:08 に 松本リサ が投稿
肉のおいしさの大きな要素に柔らかさがある。味とは関係ないのだが、食感は「おいしさ」に重要な役割を閉める。「この肉、おいしくて、柔らか〜い」と顧客に言わせるためには、いくつかの方法がある。



熟成



特に牛肉の場合は、これがもっともナチュラルな方法である。牛肉は、屠殺した後は「死後硬直」といって、筋肉が堅く引っ張り合っている状態で、ちょうど鎖がしっかりとつながっている状態である。これが、時間がたつと、鎖状にしっかりとつながっていたものが、肉自体が持っている酵素によって、鎖が次第に切れてきて、肉が柔らかくなっていく。同時に、肉の風味が出てきて、おいしくもなるのである。

どの程度の時間で柔らかくなるのかというと、0〜1℃程度の冷蔵庫に、枝肉、あるいはブロックで、脂肪などを外さない状態で、屠殺後約1週間位で熟成効果が出て来る。2週間で、大体柔らかくなり、これを過ぎると肉の色が次第に黒くなっていく。小売店で肉の色を見せながら販売する場合は、これ以上置くと見た目が悪くなって具合が悪い。しかし、熟成の方は、この後がもっともいい状態に出来ていく。3週間位が食べごろになる。米国の高級レストランなどでは4週間の熟成をするところもある。

熟成というのは、肉を長く置くわけであるから、バクテリアが多いと、熟成するどころか、腐敗に向かってしまう。また、外食レストランで長い間熟成させるためには、それだけの大きさの冷蔵庫が必要になる。3週間の熟成をするのならば、3週間分のストックをしなければならないのである。これはかなりのコストになる。そのために、米国などではこの熟成を専門に請け負う業者がいる。「ポーションカットセンター」と呼ばれているもので、大手のパッカーからサーロインなどの部位別の肉を仕入れ、これをレストラン側のニーズによって熟成してくれるのである。さらに希望すれば、決まった大きさ、重量にカットをして、店に納入してくれる。ポーションカットセンターは、この手間賃を稼ぐわけである。レストラン側では、面倒な熟成やカットをやってくれるのであるから、コストさえ合えば利用が可能だ。実際米国ではこのシステムが完全に定着している。日本においてはまだ一部の業者がまだ模索状態で初めているぐらいだが、これから牛肉の扱い方がわかってくるに従って、普及していくだろう。



果物



熟成は肉自体が持つ酵素によって起こるが、果物には、肉を柔らかくする効果を持ったものがある。これは、果物の持つ酵素による「軟化」である。特にパイナップルとパパイアがいい。ハワイの料理で、豚肉とパイナップルを一緒に調理する方法があるが、あれも肉の軟化の効果があるからである。また、太平洋戦争の時に、東南アジアに行った日本軍が、現地の人々が水牛の肉をパパイアを潰した液に漬けて食べているのを見付けた、食べてみたらあの堅い水牛の肉が柔らかくなっていた。これも同じ効果である。こういったところから果物の軟化効果が知られるようになってきた。

パイナップルには「ブロメライン」、パパイアには「パパイン」という酵素があり、これが肉を軟化させる。小規模に利用するのは簡単で、パイナップルやパパイアを擂り潰して汁を作り、これに肉を浸せばいい。短時間で柔らかくなる。ただし、一昼夜とか、2〜3日も置いたら、酵素が効き過ぎて、肉がどろどろに溶けてしまう。肉の種類や部位、厚さによって、どの程度果汁に漬けるかを見付け出さなければならない。缶詰のものは、酵素が失活しているので、効果はない。

パパイン、ブロメラインなどの天然酵素を粉末にした食品用の軟化材も出ている。製品によって濃度が違い、使い方も異なるが、肉に振り掛けたり、水やアルコールに溶かして使う。ソースを作るのに使うと味が丸くなる。御飯を炊くときに使うと味や風味が良くなる効果がある。軟化まで使わないで、小量使うことによって、肉や魚などの臭みを消す効果もある。シーズニングに混ぜた製品もある。


機械式軟化法



細いサーベルのようなナイフを何十本、何百本も付いたものを、肉に差し込んで、肉の筋を切る方法である。個人店舗で使うには、手のひらに乗る小型のものが市販されている。余り安いものだと、ナイフがすぐに切れなくなってしまう。そうなると、肉の筋を切るのではなく、肉の繊維をつぶしてしまうことになり、肉をまずくするだけになってしまう。レストランのキッチンで使うには「ジャカード」ブランドのものがいい。「ジャカード・テンダーマチック・ミニ」が市販されている。

食肉のパッカーやセンターで使うには、大型のものが必要になる。テーブルトップのものや、モーターをつかった自動式のものまである。

機械式の良さは、早いことと、どのくらい柔らかくするのかが簡単にコントロールできることである。



低温調理



ローストで行なわれる。普通のコンベクションオーブンでローストビーフを調理する場合、180℃で調理される。しかし、低温調理では120℃で調理され、肉中温度が上がってきてから、55℃程度で数時間保温をする。この保温のことを「ホールディング」と言っているが、この温度と時間が肉を熟成させて柔らかくする。具体的な調理手順は、コンベクションオーブンでは、肉の大きさによって1〜3時間程度で調理を終了する。しかし、低温調理では、例えば夜9時に調理を初め、最初に120℃で1〜3時間調理し、肉中温度が40〜45℃になった後、55℃にオーブンの温度を落とし、そのまま翌朝までホールディングをしておく。12時から翌朝9時までだと9時間のホールディングになるが、この1時間が冷蔵庫の自然熟成の2日間に相当することになるのである。9時間のホールディングならば、9X2で、18日間の自然熟成の効果になるのである。調理時間はかかるのだが、深夜に無人で調理できるので、コストはかからない。さらに、歩留りもいい。低温調理の代表的なオーブンには「ハローヒートオーブン」がある。

コンベクションオーブンだと、2割位は調理ロスで無くなってしまうが、低温調理だと1割程度で済む。ここ数年の間にコンベクションとスチーマーが一緒になった「コンベクションスチーマー」が急速に普及しているが、これだとスチーム(蒸気)を使いながら調理できるので、しっとりと、ジューシーに出来る。



マリネ



肉をマリネ液に漬けて軟化させる方法である。マリネ液はオイル、オニオンなどを使って独自の味に作ってもいいし、メーカーからも製品がいろいろと出ている。数十分から数時間、あるは一晩漬け込んでおいてから調理する。機械式のテンダーライザーをしてからマリネをしたらもっと効果的だし、酵素と合わせればさらに効果が出る。

柴田書店「月刊食堂」95/12月号より
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