ラムは外食の有力な食材、どう活かすか

2013/05/25 16:53 に 松本リサ が投稿
羊肉の歴史というのは、戦後日本人のたんぱく質が不足している状況などから、オーストラリアで低価格で手に入ったマトンを輸入し、この臭みをカバーするためにタレを工夫して、庶民が食べやすくしたのがジンギスカンで、これからスタートをしている。羊肉には3種類あり、生後1年未満がラム、2年以上がマトン、この2つは誰でも知っているが、もう一種類は生後1年から2年の間で、これをホゲットという。羊のフレーバーがラムよりもあり、マトンみたいに臭くはなく、価格はラムよりも安いので、オーストラリアでは良く食べられる。また、ラムの生後2〜4カ月ぐらいのラムを特別にミルクラムとも呼ぶ。日本に入っているのはほとんどがラムとマトンである。
ジンギスカンでは、最初のうちはほとんどが価格の安いマトンで作っていた。しかし、柔らかく味もよいラムを次第に使うようになり、今では8割がラム肉で作っている。高品質のラムの需要になってきているのである。

さて、これからフードサービスで面白いのは、ラムを使った各種メニューである。フレンチ、イタリアンだけでなく、スパイスをたっぷり使ったエスニックメニューなど、ラムのメニューは豊富だ。今までラムは日本のフードサービスでは大きなマーケットとしては定着していないが、この原因の最大のものはラム肉の鮮度管理である。
オーストラリアやニュージーランド、米国でも、ラムの素晴らしい味を体験した人は多いと思う。しかし、日本に帰ってからはどこにも満足できるラムメニューが無い、という不満を持っている人は多い。探せばあるのだが、どうせ日本にはないとあきらめてしまっているのが現状である。超高級レストランに行ったらあるが、そんな高い金を出してまでわざわざラムを食べに行く気にはならない。価格の手ごろなレストランでラムメニューを見つけて注文しても、大体は予想どおり美味しくない、これは、ラムの調理や味付け方法が原因ではなく、ほとんどがラム肉の鮮度なのである。

ラムを美味しく食べるのならば、とにかく鮮度のいい肉を手に入れて、すぐに調理することである。これさえ守れば、ソースや、シーズニングは、大げさにいえばある程度のものであれば問題はない。著者が家で良くやるラム料理は、塩、胡椒をしてフライパンで焼き、生姜醤油で食べる、ただそれだけである。女性や子供には、市販のステーキソースで十分である。
鮮度のいいラムのラック(骨付きのリブ)をカットし、すぐに調理したら、最高の味である。しかし、切り身にしたあと、1日置いて次の日に調理をしたら、味が無くなっている。更に次の日になったら、臭みが出始めているのがわかる。その後はどんどんマトン臭になっていってしまう。このことを「ラムがマトン化してしまう」と呼んでいる。
鮮度のいいラムは素晴らしい香りがするが、その香りは鮮度落ちの早い青魚のようにハイスピードで変化をしていってしまうのである。この原因はまだ良く解明されていないようだが、脂肪が大きな原因になっている。ラムをカッティングしたナイフやまな板を、洗わずにそのまま翌日まで放置しておくと、マトン臭になっているのがわかる。ラムを焼いたフライパンを洗わなくても同じことになる。

日本に入って来ているレストラン向けのラムのほとんどはラムラックである。牛肉でいえばリブの部分の骨付きで、チャインボーンという背骨の部分をバンドソーで外してある。骨の尾の部分はフレンチカットといって、食べるときに指で持ちやすいように肉を外してあるものが多い。パッケージは、2つのラムラックブロックを、フレンチカットにした骨の部分を、両方の手の指を組むような形で組み合わせ、2つを一緒に真空パックにしてあるのが使いやすい。
パッケージを破くと、2つのラックに分かれる。ローストにするならば、このままオーブンに入れればいい。オーブンが無くてもラムラックならばフライパンで簡単にローストできる。ブロックが小さいので、熱めのステーキを焼くのと同じようにしてフライパンで焼けばいい。最初に脂肪の面から焦げ目を付けて裏返し、表面に均一に焦げ目が付いたらフタをして、目的の焼き具合まで中火か弱火にして焼けばいい。焼き加減は、ミディアムぐらいがラムのフレーバーが出て、旨味がある。焼いた後、骨の間をカットすれば、簡単に一枚づつに分かれるので、プレートに乗せ、ソースをかけ、ガロニを添えて提供すればいい。

バーベキュー、ステーキでは、ブロックから、骨の間をカットして一枚づつにし、あぶるように強火で焼けばいい。
扱いで注意するのは、鮮度だけである。冷凍の場合、冷蔵庫で解凍をするまで真空パックのままにし、調理する直前にパックを破くようにする。切り身にしてステーキタイプにするのならば、オーダーが来てから切り身にしなければならない。一緒にパックされているラックの片方が真空パックを破いた後余ったら、翌日使うぐらいならいいが、それ以上は絶対に出さないほうがいい。鮮度の落ちたラムを食べた顧客は2度とオーダーしないだろう。

ラムラックは、ニュージーランドやオーストラリアから入っている。米国からも入っているが、価格は高い。輸送はある輸入業者は冷凍の船便と、チルドの航空便の両方を併用している。併用することによって、在庫を安全圏に確保することと、鮮度を守ることのバランスをとっているということだ。ということは、ユーザー側とすれば冷凍とチルドのどちらで入ってくるのかわからないことになりはしないのか、心配になる。チルドで入ったものを何日も保管するよりも、冷凍の方がかえって鮮度を保持できる。この点供給者側に良く確かめることだ。

現地のパッカーにまで遡ってみるならば、屠殺からシッピングまで、どれだけ神経を使って鮮度保持をしているのかを良くチェックすることだ。屠殺後、枝肉にして冷却し、その後部位別にカットをするのだが、どれだけ早くこの作業を行っているかである。
枝肉は24時間かけてよく冷やすことになるが、枝肉を部位別にカットするとき、手早くやり、パッケージにすぐ回し、いかに早く冷蔵又は冷凍するかである。チルドで日本に送る場合は、どれだけ短時間に送れるかが勝負である。

冷凍の場合は、急速凍結でなければならない。凍結庫に入れる場合、一番いいのは、真空パックした後すぐにトンネルフリーザーなどの急速凍結にし、その後箱詰めにする方法である。箱に入れてしまってから凍結するよりも、小さなブロックで凍結するほうが短時間で凍るので、それだけ鮮度がいい。最も悪いのは、段ボールケースに入れた後、数十箱をパレットに載せ、パレットごと凍結庫に入れることである。こんなことをすると、中の方に入ってしまった箱がなかなか凍らないことになる。このことがあるとき米国から入れたハムであり、そのハムを解凍したら大量のドリップが出て、全く使い物にならなかった。
ラムラック以外の形は、カーカスや、ボンレスのロイン(バックストラップ)や、モモ肉などがある。カーカスは、背割りしていないままの枝肉で、キッチンでこれをばらしてすべての部位をバランス良く使う、などということは、相当の経験と、販売量のボリュームがないと無理である。バックストラップは、鮮度がいいものであれば、ナイフで切り身にするだけだから、使いやすいだろう。モモ肉は量が少なく、ほとんど入っていないようだが、タタキやステーキに向く。ただし、形がロインのように丸太状でないので、カッティングが難しい。国産物もあり、北海道、東北辺りの産地が多いが、ラックだけ買うというのは難しい。

ラムに合うシーズニングだが、よくラムにはハーブ系がいいといわれるのだが、これは欧米のことで、どうも日本では余り受けない。欧米の生活を長く経験した人はハーブ系を好むが、そんな顧客はそう多くはない。一般の顧客を対象に試食をしていると、大体は鶏肉や豚肉にかけるようなミックスシーズニングが美味しいという。塩とブラックペパーで焼き、醤油系のソースという和風の味付けも一般的に良く受ける。
欧米でラムに使うソースとして一般的なものにミントソースがある。ミント(ハッカ)と砂糖を使ったソースだが、これで日本人にラムを食べさすと最悪である。今までに吐き出した人はいくらでも見ているが、美味しいといった日本人には会ったことが無い。しかし、フードサービスに携わる人だったら、一度試して経験はしておいたほうがいいだろう。

ラムはレストラン向けにはこれから面白いが、弁当や惣菜には向かない。レストランならばパッケージを破いてから食べるまですぐなのだが、惣菜や弁当では時間がかかる。売り場に陳列しているときに鮮度が落ちてしまう。ラムは調理するまで早くしなければ行けないが、調理した後も鮮度が落ちるのが早い。脂肪が白くなって、その脂肪がマトン化し、臭いが出てしまう。ラムはスピードが命なのである。

柴田書店「月刊食堂」 96/9月号より
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