器を変えてみたら

2013/05/24 0:54 に 松本リサ が投稿
東北は一ノ関の駅前には名物「ソース豚カツ」の店がある。混むと困るので11時45分に行ったら店はもう満員で「それでは裏へ」というので裏にまわったら二階の宴会場に案内された。古い座敷だが、大きな部屋に通されて、色々メニューがあるけどもちろん「ソース豚カツ」を頼んだ。我々のあとからも二階に上がってくる客がいるので、なかなか繁盛している。

待つこと数分で味噌腕とお新香が来て、追っかけ何の変哲もないオーソドックスな丼が来た。ワクワクしながら開けてみたら、一口大よりも少し大きめの豚カツが三つ乗っている。しかし、これは豚カツとは言っても、衣はパン粉ではなく、フラワーを付けて揚げたもので、いわば鶏肉唐揚げの豚肉版だ。

カツを取ってみたらその下にはキャベツの千切りが入っていて、その下にご飯。カツにかかっているソースが少ないので変だなと思っていたのだが、ご飯の下、丼の底にソースが入っている。これは、まずソースを丼に入れ、その上にご飯を入れ、千切りキャベツを乗せ、最後にカツを乗せてちょっとソースをかけたのである。普通の豚カツと全く違い、卵も使っていないし、煮込んでもいない。つまり、皿に乗せる豚カツ店の豚カツを、そのまま丼にしたものなのである。器を変えたのが名物になり、流行っているようなのだ。

洋食の豚カツは、皿の上に、豚カツと千切りキャベツが乗っている、この丼版になっているわけで、考えて見ればこのメニューはさっぱりと豚カツを食べられてなかなかうれしい。これをもっと一般的にやるならば、まず、丼にご飯を入れる。なぜなら、丼の底にソースがあると、下のご飯にばかり味がついてしまってよくない。丼の最後のソースの味をたっぷりしみ込ませて仕上げをしてもらおうという考え方はわかるが、薄い味が好まれる現在、田舎ではともかく都市部あるいはヘルシー志向には、仕上げ最後はさっぱりといきたい人が多いと思われる。最後にソースご飯を食べたい人は、自分でソースをかけれるようにしておけばよい。

ご飯の上には千切りキャベツを大目に乗せる。ヘルシーな野菜たっぷりにするのだ。このキャベツは冷たいまま乗せてしまうと、ご飯の温度とその上に乗せるカツの温度を下げてしまうので、温めたものを乗せると良い。電子レンジで温めても良いが出来ればスチーマーでしっとりと温めたほうが美味しいだろう。

最後に豚カツだが、これはやはりケンの立ったパン粉の豚カツだ。ロースの豚カツ一枚を一口大、一般的なカツ丼程度の大きさにカットして乗せる。そして、ソースはかけないで、顧客の好みでかけるようにしたほうが良い。

私は豚カツ店に行っても、その店自慢のソースは礼儀上ちょっと一切れ分は味わうのだが、基本的には醤油を口に入れる直前にたらっとたらして辛子をちょっと付けて味わう。最初から全てにぶっ掛けてしまうよりもこの方が風味があってパリッとしているので美味しいからだ。一般的な豚カツソース、おいしい醤油、それで特殊だがデミグラスソースも置き、選べたらうれしい。器を変えたら、全く違うメニューが出来る。

 

東京は池ノ端の蕎麦「薮」では「種込み」とかいっているメニューがある。東京の蕎麦はつまみを色々とってゆっくり飲みながら最終的にかけそばで仕上げというパターンなのだが、このつまみの一つとして種込みを頼む。これはかき揚げ蕎麦に乗せるかき揚げ、つまり「種」がそのままつまみとして出され、これを契って蕎麦つゆで食べても良いし、塩をちょっと振りかけるのも良い。かき揚げ蕎麦の上に乗っているかき揚げが皿に器を変え、食べ方も蕎麦からつまみなって出て来るのだ。これがうまい。

ちなみに「たぬき蕎麦」というのは「種抜き蕎麦」から来たものだそうだ。天ぷらの中身、つまり種が無いからだ。

この店では焼き海苔も素晴らしい。普通は小皿に乗ってくるものだが、ここでは小さな箱に入ってくる。上蓋を開けると焼き海苔が入っているのだが、その蓋を取ると中に盃に入ったちろちろと燃える炭が見える。これで海苔をパリッとさせているのだ、600円。知性に富んだ器だ。

 

秋になってくるとスーパーの食肉売り場ではしゃぶしゃぶや好き焼き用のスライス肉が良く売れるようになる。このパッケージ、トレイという器を変えると売れるようになる。四角の普通のトレイから扇型や丸皿形のトレイに入れることで、狭い陳列ケースに入れるには問題があるのだが、良く売れる。これは、顧客が家庭に帰ってからしゃぶしゃぶ鍋や好き焼鍋の横にこのトレイにまま並べることが出来るという便利さから来ている。また、木目のデザインをしたトレイならばもっと良い。低価格の肉は白いトレイで、高品質高価格の肉には木目調となる。資源やコストの問題とは逆行するのだが、これにすることだけで売れるようになるのだから、商売として正しい。

 

米国のスーパーでよくやることなのだが、缶詰めなどの長期保管が出来る食品の日付が次第に古くなってくると、そのまま廃棄しないで、デリカテッセンに持っていき、サラダや加熱加工して売ってしまう。ハムの缶詰めだったら、開けて、スライスをして、ポテトサラダなどに入れ、その日のスペシャルメニューとして低価格で売り切ってしまうのだ。あるいは焼いたり煮込みに入れたりもする。廃棄すればマイナスになってしまうものが、ちょっと加工する、器を変えることで、売り上げと利益を得ることが出来る。

米国でカニの缶詰めは高級品である。もちろん日本でもそうなのだが、米国ではカニの缶詰めは缶から出したままの形の方が高級感があるようなのだ。どのようになるかというと、レストランで「カニサラダ」を頼むと、皿あるいはサラダボウルに野菜が入り、その上に、カニ缶の蓋を開けて、そのままひっくり返した状態、缶に入っていた形が崩れないように乗っけてあるのだ。

かなり昔この状態を見たときには何といい加減な盛りつけをするのかと思ったのだが、そのレストランは結構高級なクラスなのである。また次の町に行き、ふと気になってまたカニサラダを頼んだら、全く同じ状態であった。聞いてみたら、缶詰めのカニは高級なので、このカニは高級な缶詰めのカニを使ったものだ、ということがはっきりとわかるようにこうしているというのである。

しばらくしてからニュージーランドで有名なシェフが日本の高級ホテルで一ヶ月ほどニュージーランドフェアを行うために、ニュージーランド政府のバックアップもあって日本に来た。メニューテストの時にカニ缶のことを聞いたら、ニュージーランドでも同じだという。そこでアドバイスをした「日本ではそんなことは絶対にやってはいけない」
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