おいしい食素材はそのまま食べたい

2013/05/20 1:52 に 松本リサ が投稿
グルメホラー
このところ、朱川湊人の愛情ホラー「花まんま」、地球科学ホラー「さよならの空」、浅田次郎の人情ホラー「憑神」、三島由紀夫の輪廻転生ホラー「豊穰の海」など、ホラー小説を立て続けに読んでいるので、私の前にもホラーが出て来た。
以下は、私の私見である。私が間違えているのだろう。しかし書かずにいられない。

先日、ある気鋭のシェフが、新しいコンセプトの新店を出したという紹介記事があったので行ってみた。
まずはアペタイトセットから。
牛肉のカルパッチョは、サラミをごく薄くスライスして、プラスチックトレーに並べたような状態になっている。乾き始めていて、ビニールみたいな食感だ。かろうじて牛肉の味がする。
コンソメのような色のスープがある。スプーンを入れると、底の方に肉のクズが沈んでいる。大ナベで作ったスープが無くなり、底に残ったのを鍋を傾けてすくい取っていれたようだ。これは鴨のスープ。
フォアグラは、フォアグラの味は一応したが、それに何だかわからないが、黒い絡まったものが甘くて、一緒に食べられなかった。これはブルーベリーだった。ブルーベリーを取り除いて、フォアグラ部分だけ仕方なくパンに塗って食べた。
一部を残して、アペタイト盛り合わせを早々に下げてもらったあと、秋野菜の煮物が一皿来た。独身の頃、近所の秋田のおばさん姉妹がやっている居酒屋の「野菜の煮しめ」を思い出した。あれはたしか300円ぐらいで、おいしかった。しかしここのは、どう見ても昨日の残りの野菜の煮物をもう一度加熱してぐじゃぐじゃになったようだ。
メインが来た。私はカサゴのポワレ。食べた途端、かまぼこ用のタラを、緩慢凍結して、ドリップだらけになってしまったのを調理したような気がした。
どのようにしたら、このどうしようもない味に料理できるのだろうか?
カサゴなんて、フレッシュでの仕入れしか考えられない。
カサゴなんて、丸ごと塩焼きにして、バリバリ食べるだけでとんでもなくおいしいのに。それが何でこんなに……かわいそうに……もったいない……
下に敷かれているしめじ茸を食べたら、上に乗っているカサゴの不味いドリップが染み落ちていた。さらにその下のドウはもう食べたくなかったので、何だったのか不明。
素材を、いじくり回して、どうしてこれだけ不味くしてしまうのだろうか?
素材がダメだからだろうか? それならそんなの仕入れなければいい。
ここは気鋭の店なのに、どうしてこんな状態になってしまったのだろうか?

食素材そのまま食べたい
フードサービスで、レストランで「こんな店があったらいいな」と私が思うのは「素材屋」だ。
素材をそのまま、何にも手を加えないで出してくれる店。
松本のホテルの朝食で、朝食バイキングに行った。
エレベーターの中に「信州の野菜丸ごと朝食バイキング」といったようなポスターがあったのを、エレベーターを降りたところで気がついた。何だろう。
レストランに入ったら、巨大な透明アクリル製のボールに、氷がたっぷりと敷かれ、その上に、キュウリを縦真っ二つに裂いたのが大量にドドーッと盛られている。これはすごい。
皿に乗っけて、とりあえずテーブルにつき、塩を振りかけてかじってみたら、信州のみずみずしさが口の中ではじけ飛びまくった。
かじり潰して破片となったキュウリが、口内上下にぶつかり跳ね返って、味が飛び出てくる。
キュウリって、こんなにおいしいものなんだ。
料理のテーブルに行って、今度は野沢菜の漬物と、ポテトサラダを持ってきた。
野沢菜の色は、よく見る漬物の色とちょっと違って、浅く明るいグリーンだ。
かじってみる。
これは漬物ではない、サラダだ。
茎をかじると、くしゃっとつぶれないで、ぱりっと音がするようだ。
薄く細いチューブの中に、野沢菜のジュースが入っていて、それをはじき出すみたいだ。
今度はポテトサラダ。
ポテトは固めにゆでてある。ポクポクというのではなく、シャキシャキした食感を十分に残している。根菜というよりも、野菜といった方がいい食感だ。
トマトジュースを持って来て、ぐーっと飲んだら、加熱してあるジュースなのだが、採れたてのトマトをそのままジューサーにかけたようだ。新鮮で、青臭さがわずかに残っているようなのに、とろっと濃い。
エレベーターのポスターの意味がよくわかった。
他の素材もいろいろ食べ、すっかり満足してレストランを出る時、朝食で初めてマネージャーに「素晴らしかったー、またやって、また来るから」と声をかけたら、満面の笑みで喜んでいた。そして「シェフに、素材そのままのこれ、最高だったと伝えてください。と言っておいた。
信州の野菜丸ごとイベントで素晴らしいのは、素材に全く、あるいはほとんど手を加えないで、素材のおいしさを楽しませてくれることだ。
これにはレストランのシェフとしては勇気も居ることだろう。
キュウリを例にとれば、シェフは縦二つにカットしたことと、温度管理だけなんだから。もちろん素材を探してきた、あるいは選んだということが重要なのだが、キッチンの中で手を加えない。料理という手を加えることをしたいのだが、あえてそれをしないで、そのまま出して、「さあどうだ、信州はおいしいですよ」とやったことだ。


素材そのままを、いかにおいしく食べてもらうかの代表は鮨だろう。この日本独特の食文化が最近米国、ヨーロッパを始めとして、世界に飛び出していっている。松本の朝食バイキングはその野菜版だ。
おいしい素材を、そのまま出してくれる店、大歓迎。
食の生産側からは、そのまま焼くなりして食べてもらいたいという提案もしたいものだ。
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