牛肉のロース系以外の部位を上手に使おう

2013/05/25 17:05 に 松本リサ が投稿
ストリップロイン(日本式には、サーロイン)、テンダーロイン(ヒレ、ヘレ)をステーキハウスやファミリーレストランのステーキメニューに使うことがほとんどだが、メニューや使い方を工夫することによって、これ以外の部位でも使いやすい、十分にメニュー化出来る部位が色々とある。



リブ



良く知られている部位だと思っているのだが、話をするとあまり理解されていないことが多い。

この部位は、ストリップロインの前の方で、チャックとの間にあるステーキ用の部位である。ステーキにしたときに断面が大きいので、大型のステーキになる、そのために、1枚あたりの重量が大きすぎてしまうので、使いにくいと思われているところがある。しかし、ブロック肉の表面に被さっている「カブリ」という部分を取り除いたものがあり、これを使えば手頃な大きさになる。「リブのキャップオフ」とか「スペンサーステーキ」「デルモニコステーキ」と米国では呼ばれている。オーストラリア、ニュージーランドでは「キューブロール」という。

キューブロールには、2種類あると考えたらいい。日本向けに穀物肥育されたグレンフェッドビーフと、牧草飼育したグラスフェッドビーフのものである。グレンフェッドビーフのものは一般的であるが、グラスフェッドビーフのキューブロールは検討の余地がある。理由は、低価格で、軟らかいからである。

グラスフェッドビーフの価格はグレンフェッドビーフよりも大幅に安い。それにもかかわらず敬遠されるのは、「臭いがある」「堅い」と行った理由からであるが、本来のグラスフェッドビーフはそんなに臭いものではないし、むしろ自然の旨味があって、赤身が多いので、若い人向けのメニューに使える。昔の「臭くて、堅くて、色が悪い」ものとは今は違ってきている。軟らかさの点では、ストリップロインよりも軟らかい。であるから、オーストラリア、ニュージーランドではステーキに最も使われる部位である。日本でも沖縄ではこのキューブロールがほとんどである。



ショートリブ



バラ肉だが、バラの後ろの方は牛丼などに使う脂肪が多い低価格の方で「ショートプレート」という。バラ肉の前の方は赤身が多く、焼き肉では「上カルビ」になる「ショートリブ」である。ショートリブは焼き肉では最も一般的だが、その他の業態では使われていない。しかし、原料の形が板のようになっているので、カッティングがだれでもしやすく、使いやすい。

赤身と脂肪が適度にあるので、和食の小さな編み焼きや煮込みに使ってもいいし、中華の角煮には最高である。一般の洋食レストランでは1センチぐらいに長く、厚く切って小さなステーキやソテーに使える。ファミリーレストランなどでは「カルビ丼」などどうであろうか。



骨付きショートリブ



ショートリブの骨の付いたものである。ショートリブというのは肋骨(リブボーン)の所に付いている部位で、骨を外した肉の部分だが、この骨を、骨の方向に対して直角に、厚さ1センチほどに切ったものである。カットをするのにはバンドソーという帯鋸切りを使い、素早くきれいにカットをしてある。

米国からのものが一般に出回っていて、骨の3本分がつながっている。焼き肉では「骨付きカルビ」として使われている。韓国での骨に付いた肉を切り開いたカッティングとは違うのだが、手軽に使える骨付きカルビになる。本来肉の美味しさというのは、骨や筋から出て来るものだが、これにはそれがついている。このまま焼いて、食べる時に外せばいい。

骨が付いている分だけボリュームが出るし、ワイルドな食べ方が出来るメニューに出来る。ステーキメニューで骨を3本付けた長いまま使えば「骨付きステーキ」になる。バーベキューメニューには最適である。3つに外してカレー、和風、中華の煮込みに使えば、味はよくなるし、高級感まで出る。



チャックテンダー



肩の肩甲骨の部分に付いている、赤身の多い部位である。とうがらしのような形をしているので、日本名は「とうがらし」である。ここは、刺身やタタキに使える。大きさも小さいので、使いやすい。

ほとんど赤身なので、適当な長さの「サク」にしてから、表面を焼き、「牛肉のタタキ」に出来る。和食や独立店舗で店の特徴を出したい場合は、タレに漬け込んでからタタキにするといい。淡泊な赤身だけの味に、独自のタレの味が染み込んで、独自の味に出来る。ステーキ状の切り身にしてから軽くあぶるぐらいの「レア」で焼けば、ヘルシーな「牛肉赤身肉のソテー」になる。



ランプ



ストリップロインの後ろの方で尻の方の部位である。この部位は、形がストリップロインのように丸太状になっていないので、切り身にカットをしにくい。しかし、肉としては軟らかいので、パート中心のチェーン店ではなく、ある程度店でカッティング作業が出来るところならば使える。低価格で、軟らかい部位だからである。ステーキやソテー向けである。



ボールチップ



米国の低価格のステーキハウスで良く使われている部位である。ランプの反対側の前の部分にある肉。この部位もランプと同じように切り身にしにくいのだが、軟らかい。ランプもそうだが、ステーキの切り身に出来ない端の部分は2〜2.5センチぐらいの角切りにして「さいころステーキ」や、バーベキューの串刺しにしたらいい、あるいはシチューにしてもいい、そうすればロスは出ない。



ブリスケット



オーストラリア、ニュージーランドの名前は「ポイントエンドブリスケット」である。この部位は牛肉のハムとも言える「コーンドビーフ」や、スパイシーな味の「パストラミ」に加工される。とても味がある部位なのだが、そのままだと堅いので、加工するのである。加工すれば軟らかくすることが出来るし、味を付けることも出来る。

これを外食で使うにはローストビーフにするといい。ローストの方法は、普通にローストするとやはり堅いので、低温ローストをする。一般的にはコンベクションオーブンを使って180℃ぐらいで焼くのだが、もっと低温で、120℃程度で時間をかけてゆっくりと焼く。焼き上がった後も60℃ぐらいで数時間保温しておくと熟成して軟らかくなる。最近急速に普及してきているスチームコンベクションオーブンで低温調理をしてもいい。



ストリップロイン、テンダーロイン以外の部位を紹介したのだが、これらの部位を活用することは、リブ以外は低価格で買えるのだが、同時に、1頭の牛肉からとれる全ての部位を、できるだけ多く活用するノウハウになる。このノウハウは何になるかと言うと、牛肉を買うときの低価格のための交渉に使えることと、独自の牛を開発できるという点である。

低価格のための交渉というのは、オーストラリア産に限ってだが、ストリップロインとテンダーロインを単体で好きなだけ買うのではなく、その他として、今回紹介した部位も一緒に買う、という交渉をすれば安く出来るからである。というのは、米国ならば、商社の仕入れ段階で、ストリップロインとテンダーロインだけを買うことはいくらでも出来るのだが、オーストラリアの牛は、日本向けに特別に穀物肥育をしているので、商社はそこで出来る全ての部位を買う契約になってしまうからである。

そして、ロイン系以外の部位はうまく売れないので、低価格にしたり、現地に安く残してきたりし、その分の売上をロイン系に乗せるようになっているからである。であるから、もし「1頭の全ての部位をセットで全て」買う、という買い方ならば、価格が大きく違って来ることになる。

このことが、独自の牛肉を開発できることにつながって行く。たとえば、薬、農薬などを一切使わない有機栽培の野菜がこのところ急速に伸びているが、この牛肉版の「有機飼育牛肉」が出て来ている。有機飼育牛肉を作っている農家は日本でも海外でも出て来ているのだが、これらの農家と契約をするときに、ロイン系しか買わない、といったら、出来ない。1頭全てを買うようにしないと出来ないのである。

そこで、使える部位は出来るだけメニューにして、どうしても残ってしまう部位は、細切れ状で炒めものや煮込みに使えるメニューする。細切れのメニューには、天ぷらのように揚げるフリッタや、米国のファミリーレストランで良く売れている、牛肉入り野菜炒めのような、ビーフファヒータがある。更に残る部位は、ハンバーグやミートボールなどの挽肉メニューに使う様に工夫したらいい。

こういった牛肉全体を使うノウハウは、将来の牛肉の有利な買い方のためにも重要なことなのである。

柴田書店「月刊食堂」96/1月号より
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