牛肉 米国とオーストラリアの違い 1

2013/05/25 6:48 に 松本リサ が投稿
大ざっぱに言って、日本全体の牛肉の消費の、半分は海外産で、その大方は米国とオーストラリア産が半々程度である。フードサービスにおいて、牛肉をどのようなものにするかは、大変な判断である。ということで、この2大供給国の牛肉は、どのように違っているのかを述べてみる。


穀物飼育と、牧草飼育


日本で使っている牛肉の多くは穀物飼育(グレンフェッド)であるが、米国は穀物飼育がほとんどなのにたいして、オーストラリアは、基本的には牧草飼育(グラスフェッドあるいはパーチャスフェッドという)である。

日本のフードサービスの主力は穀物飼育なので、牛肉が自由化された前後から、それまで輸入牛肉はオーストラリアのシェアが圧倒的に多かったのが、米国産穀物飼育に急速にシフトしてきた。その結果、現在はだいたい半々になったのである。この間オーストラリアは黙ってみていたわけではなく、日本向けに穀物飼育牛肉を強化してきた。オーストラリア産は米国よりも価格的に多少有利という点を生かして、シェアの劇的逆転までは踏み込まれていない、というのが実情かもしれない。

しかし、米国はほとんどが穀物飼育なので、物量的に多く、流通、取り引きは、部位別になっている。フードサービスの主流であるロイン系の部位だけを取り引きできる。オーストラリアは、日本向けにだけ穀物飼育をしているので、取り引きは基本的に一頭のすべての部位を契約する「セット」単位になる。これだと、肩、モモ系統などの使いにくい部位をどう処理するかが難しく、商社系のオーストラリアからの輸入は不利になる。日本のメーカー系ならば、使いにくい部位は、日本国内の工場で加工に回すなりして、処理ができる。


最近の傾向だが、オーストラリアでも国内の流通に穀物飼育が出てきている。理由は、「柔らかくておいしいから」で、米国や日本の好みになってきているようだ。

米国の穀物飼育は、一般的には6ヶ月程度の仔牛をフィードロットに入れ、5段階ぐらいに次第に穀物量を増やして肥育する。最終的な飼料の中の穀物比率は86%程度になっているところが多い。肥育期間は、コストとの絡みで厳重に数十頭づつの群でコンピュータ管理されているので、日数単位で正確に管理できている。120日、180日、250日といった具体に、ユーザーの要望と、フィードロット企業の売りたいグレードに合わせてコントロールできる。

これに対してオーストラリアでの管理は、日本向けのものでは米国と同じ方法で行われているが、大多数の一般牧場ではだいたいの肥育期間がわかるだけである。つい最近の傾向として、おおまかに3つのグレードに分けられてきている。一つは、穀物を全く食べさせていない、一般的な牧草飼育。2番目は、「百日程度」と言われている「ショートグレン」で、数十日から、百日をある程度越えたもの。3つ目が、190日か、それ以上グレンフェッドをかけたもの、である。先日この「百日程度」と「190日」がどのように違うか、脂肪を調理したりして比較をしてみたが、明らかに違う。もちろん190日の方が、味が柔らかく、風味がいい。「百日程度」は肉によってばらつきがある、60日のものもあれば、110日のものもあるからである。このオーストラリアの新しい傾向は、これから注目すべきだろう。米国産はもちろん日数単位でわかるが、オーストラリア産は、一般的なものは3段階しかないかわりに、米国よりも価格が少し安い傾向にある点がメリットであるから。


穀物飼育はフィードロットの規模でも影響をする。米国のフィードロットは、次第に巨大化をしてきていて、5万頭以上、10万頭などという大きなものが出てきている。1万、2万頭規模では採算に合わなくなっていているのである。一方オーストラリアは5万頭以下のところが多い。日本のマーケットのみを今まで相手にしてきていたので、中小規模で行われていたのである。


牧草飼育だが、これからは次第に見直されていくだろう。地球環境規模から考えると、牧草飼育の方が汚染は少ないし、効率もいい。家畜に与える飼料に対する増体率は、牛、豚、鶏肉、すべての中で、穀物飼育の牛がもっとも効率が悪い。資源の点でも、穀物飼育は無駄である。価格の点では、牧草飼育が圧倒的に安い。オーストラリアとニュージーランドの牧草飼育の赤身肉は、米国に大量に輸出されて、ハンバーガーなどの原料になっている。日本のファーストフードの原料肉はほとんどオーストラリアとニュージーランドの牧草飼育牛である。

流通は、オーストラリアの穀物飼育は一頭セット単位に対して、牧草飼育なら、部位別に流通している。ロイン系だけとか、牛丼用のナーベルエンドブリスケットだけを買うことがいくらでもできる。ヘルシー志向の赤身ステーキメニューを出すならば、迷わずオーストラリアである。また、イヤリングビーフという短期飼育の牧草飼育牛は、オーストラリア、ニュージーランドでは一般的なものだが、形が小さく、ロイン一枚あたりの単価が安くなるので、低価格ステーキメニューにはこれも使える。


補足だが、オーストラリアとニュージーランドの違いは、オーストラリアは穀物と牧草の両方を行っているが、ニュージーランドは、特殊な例を除いて牧草飼育だけである。米国とカナダは、カナダのフィードロットは米国系も多く、基本的には米国とよく似ている。


バイオ


生産の効率化、高度化のために、バイオ技術が農畜産業では盛んになっているが、この人間に対する影響がどうなるのか、不明な点が多く、消費者団体の不安の的になっている。この傾向に対しては、米国がバイオ技術を積極的に進めているのに対して、オーストラリアは積極的ではない。オーストラリア、ニュージーランドでは農産物などすべてが自然志向である。したがって、バイオ技術に対する不安を払拭して、それをマーケティングの基本とするならば、オーストラリア産を選んだほうがいい。

米国産の牛肉でも、ホルモンを使っていないものもあるが、飼料の穀物には、バイオ技術を使っているものが混じる可能性もある。この可能性が無いことを証明することに時間とコストを使うよりも、最初から「バイオ無縁」の国のものを使ったほうが、日本の消費者は安心する。


オーガニック


日本のオーガニックブームに対応して、牛肉もオーガニックが出て来ている。このオーガニックビーフでも、米国とオーストラリアでは対照的である。米国のは穀物飼育のオーガニックである。ということは、牛そのものだけではなく、飼料に混合している穀物もオーガニックでなくてはならない。事実そのようなシステムになっている。このオーガニックの穀物は、価格的に高い。さらに、いくら米国と言えども、オーガニックビーフの市場はまだまだ小さい。市場規模の小ささと、穀物の特殊性から、コストは非常に高いものになっている。

これに対してオーストラリア産は基本的に牧草飼育である。牧草飼育のオーガニックは、オーガニックの土地、草が必要で、広大な土地を必要とするが、オーストラリアにはいくらでも土地はある。オーストラリアのオーガニックビーフのシステムの一つとして「バイオダイナミックス」があり(この名前のバイオは、バイオ技術の意味ではない)、オーガニック的な土地、牧草の作り方、除草の方法、海藻や魚やハーブの糟液の作り方とまきかた、雑草の種を食べる昆虫の扱い方など、詳しい規定と指導技術が確立されている。

根本的に牛というのは草食で、穀物は元々食べない動物なのである。このようなことから考えると、オーガニックビーフはオーストラリア、あるいはニュージーランドということになってくるのだが、ロインの大きさ、味の安定性から言うと、穀物飼育の米国オーガニックにはかなわない。オーストラリアは自然に育てるので、個性もそれぞれの牛になる。米国は、飼料を計算して、機械のように緻密に生産するので、規格がそろっているのである。価格と、ナチュラル性などを考え、どちらを取るかは、フードサービス企業のコンセプトで決めなければならない。


生産のHACCP


米国、オーストラリアとも、使っている名前などは違うところがあるが、基本的には生産のHACCPを厳しく実行している。生産牧場でのHACCPというのは、牧場の土地、関連する水、牧草、飼料、これらの成分を定期的に採取、分析をして、化学的、生物的に危害の無いように牛を生産している。だいたい、屠畜場は、生産段階でのHACCPを行っていないところの牛などは、絶対に購入しないのである。


柴田書店「月刊食堂」98/7月号より
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