ネーミングによって大きく売上が変わる

2013/05/25 6:49 に 松本リサ が投稿
名前を変えた途端に、売上が突然上がった、ということを経験したことがあるだろうか。
普通は、一回商品名を付けたら、そのまま変えずに販売していくが、なかなか売れない場合には、中身を変えるとか、売価を変えるとか、特売してみる、といったことをやるが、名前を変えることは余り無いと思う。

メーカーが作り、全国的な販売網に乗せる製品というのは、ネーミングだけでなく、パッケージングや大規模な宣伝、キャンペーンまで、入念な計画を練るのだが、精肉売り場で取り扱うパッケージ商品は、それほどネーミングにまで気を付けないのが現状だろう。

しかし、ネーミングで、売上が大きく変わった例は、色々とある。事例をいくつかあげてみる。


「豚肩肉カレー用」を


ある、東日本の中堅スーパーマーケットで、「豚肩肉カレー用」というパックを売っていた。普通に長期間販売していたのだが、あるときに、豚の仕入れを見直すことになり、出来るだけセットの比率を高め、仕入れコストを落とそうということになり、各部位から作っている商品アイテムと、販売量のバランスを調査した。

そうしたところ、この「豚肩肉カレー用」が、もう少し売れると、非常にいいバランスになることになり、それならば、もう少し売る方法を探ろう。ということになった。

中堅スーパーマーケットといっても、センターでパッケージをして、店にデリバリーをしているのだから、一つのアイテムが、売れる、売れない、それによる全体のバランスへの影響というのは、大きなものがある。

最初に考えたのは、量を増やしたらどうか、アイテムを増やしたらどうか、大型と小型のパッケージのどちらかを作ったらどうか、といった一般的なアイデアだった。

ところが、ここで一つのアイデアが提案された、「名前を変えてみたら?」というものだった。提案された名前は「豚赤身カレー用(肩肉」というものだった。商品の内容やパッケージングなどは一切変えないで、ただ単に名前を変えるだけである。変更に伴うことは、POSなどの商品登録の名前を変えるだけである。特別なPOPも使わないし、もちろんキャンペーンなどもやらない。

そして、変更した結果は、それまで一日チェーン全体で1500パック出ていたものが、1800パック〜2000パックになったのである。これによって、全く何もしないで、セットバランスの調整に大きく貢献した。


鶏肉の串刺し


次は、関西の中堅スーパーマーケットの例である。鶏肉の串刺しを「若鶏焼き鶏用串刺し」の名前で売っていた。普通の焼き鳥用の商品である。

あるとき、食肉売り場全体の売上が芳しくなく、利益も下がり気味だったので、売上に貢献する商品と、利益に貢献する商品の2つの性格の商品をいくつか取り上げ、その商品を重点的に販売して、営業不振を挽回しよう、という計画が出た。

そこで、利益の点で貢献しているこの焼き鳥用のアイテムが候補に上がり、「これを、さらに売るためにはどうしたらいいか」という検討が始められた。パッケージングや、アイテム拡大などの案が、相変らず定説のように出されたのだが、別の見方として、「どのように食べられているか?」という、実に基本的な調査をすることになった。

「どう食べられているか?」といっても、焼き鳥用だから、焼き鳥に決まっている、となるところだが、それでもあえて調べ始めたところに、この案のすばらしさがあった。

関西では、「串あげ」という食べ方がけっこう盛んである。大阪駅(梅田)の地下街の一角に、確か「花之友」とかいう店名の串揚げの立ち飲み居酒屋がある、夕方などはサラリーマンでいっぱいで、斜めに立って、のれんに首を突っ込んで飲んでいるのを見かけた人も多いと思う、斜めに立ったほうが、客がたくさん入れるからである。関西では、こういった串刺し店が実に多い。

さてそこで、この「焼き鳥用」の食べ方を調べたところ、かなりの人が串揚げで食べていた。衣を付けて、少し多めの油で揚げるのである。そして、ソースを付けて食べる。

このことがわかったので、今度はどう対応しようかとなった。方向は、「串揚げでも食べられる、串揚げで食べてもらうために、どう訴求するか」である。キャンペーンをする、特製の料理カードを作る、POPを作る、と、これもまたいつものパターンになったのだが、予算の問題から、とりあえず、名前を変えて出してみよう、ということになった。

新しい名前は「焼き鳥・串あげ用」である。単純に、ストレートに名前を変えただけである。結果は、それまでの3倍売れるようになったのである。


「ローストビーフ丼」を


もう一つ例をあげる。数年前、東北のある都市に、大手の大型ショッピングセンターが出店することになった。そして、この精肉売り場の前に、島形式のミートデリショップを出すことになった。このショップは、精肉のみの商売でなく、食肉を加工し、料理し、そのまま食べられる食肉とその間連メニューを販売するための、新しい提案ショップである。

メインとなるのは、ローストビーフ、サラダ、手作りのハム、ソーセージなどである。そして、ローストビーフを使ったもので、サンドイッチやサラダなどを出したのだが、その中の一つに、「ローストビーフ丼」があった。

これは、丼に入れたごはんの上に、生姜醤油で味を付けた、ローストビーフの切り落としを乗せ、刻んだ海苔、長ネギ、それにカイワレダイコンと紅生姜を乗せたものである。

オープン時にこのローストビーフ丼を出し、当然売れ行きがいいと思っていたのだが、蓋を開けてみたら、余り売れるメニューにはなっていなかった。おかしいと思って、現場に行き、お客様の反応を見ていると、ピンと来るものがあった。

ローストビーフは、東北では、まだ知っている人はいなくて、ローストビーフなどというものは、ホテルや高級レストランで食べる「超高級」な物、というイメージがあったようなのである。

そこでどうしようか考えた末、名前を変えるアイデアが出た。「ローストビーフ」は高級で、近代的で、昔風に言うと「ハイカラ」過ぎるので、泥臭い、一般的な名前を考えた。結果、「焼き肉丼」にしたのである。

作り方はもちろんそのまま、全く変えない。ローストビーフを焼き肉にしてしまうなんて、何と乱暴な、という人もいたが、一番わかりやすい、ストレートな名前なので、かまわずにやってみた。

結果は、それまでブービーぐらいだったのが、あっというまにトップになってしまった。ネーミングが、どれほど大変なことか、恐ろしいことを体験した。


大阪のある中堅スーパーマーケットでは、新しい商品のネーミングや、POPを作るのを、販促の課長がかならず行なう。この課長は、多分40歳台だと思うが、主婦である。

新商品とか、特売品に関して、料理カードを作るときには、食肉のマーチャンダイザーが最初のプランをするのだが、その基本的なプランが出来てから、それをその販促課長に持っていく。そうすると、マーチャンダイザーが作ったプランだと、その課長はよく理解が出来ないことが多いそうだ。

例えば、新しく高級な鶏肉を販売しようとすると、マーチャンダイザーは、飼育期間が長いとか、屠鳥してから販売するまでの時間が短いといったことを消費者に伝えたいのだが、それをそのまま消費者に伝えても、消費者は何のことかよくわからない。

飼育期間が長いと、肉の美味しさの成分であるイノシン酸が多くなる、だから美味しい。屠鳥してから、早く食べられるということは、鮮度がいいから美味しい。という、消費者に、スーパーマーケットのお客様に分かりやすい言葉に直して、商品名を考える必要があるし、POPも作らなければならない。

別に、マーチャンダイザーが悪いのではない、言葉が伝わらないだけなのである。それを調整しなければならない。それがネーミングであり、コピー(コピーライターの意味のコピー)なのである。

今、店に出ているパッケージのうち、顧客がわかりにくいものをピックアップしたらどうだろうか。そしてそれを全てをわかりやすく直したら、どれだけ売上が上がるだろうか。

総合食品「フードライフ」98/7月号より
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