米国とオーストラリアの牛肉 2

2013/05/25 6:47 に 松本リサ が投稿
ポーションカットセンター


ポーションカットセンターというのは、屠畜場からそのまま部位別にカットし、箱詰めしたいわゆる「ボックスビーフ」を買い、それをレストランやデリカテッセンストア向けなどに細かく加工するところである。ストリップロインのブロックから、ニューヨークカットステーキの、例えば250グラムの切り身を切り、それをチルド、あるいはフローズンのパックにして、レストランに供給したり、レストランの要望に応じて、2-3週間熟成をしたあと切り身にしたりする。

低価格レストラン向けではストリップロインではなく、モモ部位、例えばボールチップなどの低価格の部位から、均一の重量になるようにステーキ上の切り身をとり、どうしても余ってしまう端の部分は「サイコロステーキ」にし、その他の端在は煮込み用として販売する、といったことも行う。

カットだけではなく、メキシコ料理の「ファヒータ」などは加工付加価値をつける製品だ。ファヒータは肉入り野菜炒めのようなメニューで、これに使う肉の下味付けをする。日本風で言えば味付けの焼き肉用、といったところだ。

こういったポーションカットセンターは、米国にはかなりあり、地方地方で小さな企業がひしめいている。この中で、輸出もできるような工場も多くあり、日本向けのポーションカットも行っている。加工賃は競争と、人件費のために低価格で、技術もいい。

日本のレストランチェーンが米国から牛肉を買う際には、パッカーから直接ボックスビーフで買い、日本のセンター、あるいは店の厨房でカットをして調理をするのも手だが、米国のポーションカットセンターで切り身に間でしてもらい、真空パックをしてから急速凍結をしたものを買うのも一つの方法である。

ポーションカットセンターでは熟成も請け負う。急成長している米国のアウトバックステーキハウスは、店のある地域のポーションカットセンターと契約をして、低価格のステーキ用ボックスビーフを熟成して柔らかく、おいしくして、それを店に納入している。この方法を日本のレストランでもできることになる。

ポーションカットセンターと話をし、パッカーから買い付けた牛肉原料を、例えば3週間熟成をして、その後250グラムの切り身にし、一枚づつ真空パックしたあと急速凍結し、それを冷凍コンテナーで輸入して、そのまま店まで運び込むのである。こうすれば、3週間熟成をしたステーキ用の切り身が、店で安定的に提供できることになる。

このポーションカットセンターは、オーストラリアにはあまりない。あっても技術者が不足していたり、供給量が安定していないので、製品も不安定になりがちである。先日もニューサウスウエールズであるというので行ってみたら、今の仕事はないので、技術者はレイオフしており、仕事が出てきたらまた雇う、という状態だった。また、オーストラリアでは日本人が好むステーキ用部位を、安定的に、ある程度の量を確保することは結構難しい。現地に流通しているグラスフェッドビーフならば部位別に買えるのだが、大きさ、規格、味など、日本のレストランチェーンが使うには不安定な面があり、なかなかうまく行かない。


エージング(熟成)


エージングには2通りの方法がある。ドライエージングとウエットエージングだ。ドライエージングは肉を裸のままエージングする方法で、理想的に熟成できるのだが、歩留まりが悪くなる。さらに、バクテリアができるだけ少ない状態に維持する、つまりかなりクリーンな冷蔵庫でないと、肉は熟成どころか腐ってしまう。ウエットエージングは真空パックしたまま熟成をする方法で、歩留まりもよく、冷蔵庫もドライエージングほど神経を使うこともない。ドライは高品質なレストラン向け、ウエットは一般的レストラン向け、ということになるかもしれないが、低価格チェーンのアウトバックステーキハウスではドライを行っている。また、米国の多くの高級レストランはほとんどドライエージングである。

米国ではドライエージングもウエットエージングも両方行われている。しかし、オーストラリアではほとんどウエットエージングである。オーストラリアでドライエージングをしてくれないかといろいろ聞いても、「バクテリアの問題」で、できないと言われてしまう。一部オーストラリアでドライエージングを行っているのは、独立系のレストランで、店の冷蔵庫でやっている程度である。

したがって、米国ならドライでもウエットでも両方ができるが、オーストラリアではどうもウエットエージングのものしかできないようだ。


チルドとフローズンの技術


歴史的に日本への牛肉は、米国がフローズン、オーストラリアからはチルド、というものだった。そのためにオーストラリアはチルドの技術が発達していた。チルドの技術というのは、パックしてから日本間で輸送され、日本の店で使うまで、どれくらい品質を維持できるか、ということになる。

牛肉の場合熟成があったほうがいいのだから、チルドのまま2〜3週間程度で見世に着いてから使えばいいのかもしれないが、物流の時間をついでに熟成にも利用しようというのは、便利な面、安定しないという不利な点がある。物流、在庫の状態で牛肉の熟成状態が違ってしまったら、顧客にいつも不安定な品質のステーキを供給することになってしまうからである。

では、チルドでは何が重要かというと、パック時にどれだけクリーンな状態でパックできるかである。肉へのバクテリアの汚染を全くゼロにすることは不可能だが、少なくすることはカットとパックのサニテーションや技術でできる。この点オーストラリアは牛肉が自由化された当時は米国に勝っていた。しかし、米国はフローズン中心から、日本側のニーズが高いチルドビーフに移行するために、日本に来たり、オーストラリアの技術を研究して、ついにオーストラリアに追いついている。そして、現在の日本における米国とオーストラリアの牛肉シェアはほとんど半分程度にもなってきた。それより以前はオーストラリアのシェアが圧倒的だったのである。

このような歴史が有るので、日本で輸入牛肉を扱う人の中には、まだチルドだったらオーストラリアだと思い込んでいる人も多い。今ではチルド技術は、オーストラリアも米国も同じになっていることを認識したほうがいい。もちろん歴史はオーストラリアの方があることになり、それが何らかの形で安定性につながるかもしれない。


フローズン技術は、急速凍結がどれだけできるか、設備を持っているかである。急速凍結する際には、できるだけポーションは小さいほうがいい。テンダーロインのような細く長い部位の方が、モモ系統の大きなブロックよりも肉の中心まで早く凍る。ところが、テンダーロインでも、箱の中に何本もいれてから、段ボール箱ごと凍結するようだと、これまた凍るまでに時間がかかってしまう。最近は少なくなったが、段ボールに入れたあと、何十ケースもパレットに積み、それを冷凍庫に入れて凍らせるようなところもあった。こんな状態では、いくら冷凍庫の温度が低くても、肉は凍るまでに蒸れてしまう。そんな肉を解凍したら、肉の細胞が壊れてしまっているので、ドリップがたっぷりと出てしまうことになる。また、凍結設備も重要で、トンネルフリーザーなど、急速凍結機を持ち、うまく活用していることが重要になる。

このようなところを見てみると、米国は一般的に凍結技術がしっかりしているところが多い。もちろんオーストラリアにも、ニュージーランドにもスパイラルフリーザーを持ち、米国式の管理をしているところもあるが、工場数はまだ少ない状態である。もし、オーストラリアでいい牛肉を見つけて、フローズンにするのなら、フローズン技術のしっかりとしたパッカー、ミートセンターを活用することが重要である。


日本への輸送


米国で使われいるコンテナーは40フィートで、オーストラリア、ニュージーランドは20フィートである。例外はあるが、ほとんどこうなっている。40フィートに牛肉を入れると30-35トンぐらい入る。20フィートだと15トンぐらい入る。大量に買い付けるならば40フィートで問題はないが、そこまで買いきれない場合は20フィートで細かく買えるオーストラリアのほうがいい。しかし、船便数は米国から日本への方が多い。

オーストラリアで使える牛肉を見つけ、それを日本に運ぶには、20フィートだから、細かくは運べる。しかし、便数が少ないし、例えばパースあたりから運ぼうと思ったら、シドニーやブリスベンから運ぶよりももっと時間がかかってしまう。米国からは便はいくらでもあるから便利だが、40フィートをこなさなけれならない。もし、コンテナー単位にはならないのならば混載のコンテナーに入れればいい。この場合は米国の方が有利になる。


柴田書店「月刊食堂」98/8月号より
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