売れている豚肉は?高品質豚肉を外食業は考える時期

2013/05/25 16:58 に 松本リサ が投稿
何カ月もの間狂牛病の余波が続いているが、小売りレベルでは、牛肉の売り上げが多くの企業でダウンしている。外食企業も同様だが、企業によってはそれほど影響が出ていないところもある。海外、特にヨーロッパでは、ドイツのように牛肉消費が半減したといった極端なダメージを受けている国もある。

日本の小売業では、牛肉が売れない反面、肉の消費が豚肉に移っているところが目立っている。大手スーパーでは、イトーヨーカドーが、豚肉を10%、昨年よりも売っている。売れている豚肉は黒豚が中心だという。ダイエーは、肉部門で売れているのは黒豚のみで、これだけは好調だという。ジャスコでは、肉全体の売れ行きは横ばいだが、豚肉だけは5%伸びているそうだ。ニチイも豚肉は4%、西友は5%といったところだそうだ。

豚肉が売れ出したのは、狂牛病騒ぎが始まってからではない、大体1〜2年ほど前から売れ出してきている。といっても、すべての豚肉が売れ出してきたのではなく、黒豚とかSPFといった、高品質、高級、あるいは安全性といった特徴を持っている豚肉が中心である。

豚肉を中心に消費してきたのは、東日本で、地方によって違うが、東日本では、牛肉1に対して、豚肉が2とか3ぐらいの割合である。であるから、いい豚肉が売れると、売り上げと利益に大きく貢献する。関西では、豚肉の比率は少ないが、牛肉で舌が肥えているからか、最近いい豚肉が求められている。高品質豚肉を作っている群馬県の生産者グループが、昨年関西のスーパーへの納入に成功したと言っていた。関東の豚肉業者にとって、関西はこれから面白いマーケットになるかも知れない。

牛肉自由化以後、肉の消費は、特に東日本では、豚肉から低価格の牛肉にシフトしてきていたが、2〜3年ほど前から、輸入牛肉の価格競争を嫌ったのと、国産牛肉のニーズが出てきたために、多くの小売業が国産牛肉に力を入れだしてきた。これと同じ時期に、高品質、安全性志向に豚肉、鶏肉も対応して、ハイグレードなものを売るようになってきた。牛肉の低価格路線対応としての国産牛肉の販売に、豚肉も鶏肉も合わせてきたのである。

その結果、国産牛肉は、ディスカウントの輸入牛肉よりも高いが、安心感で売れてきて、豚肉、鶏肉も、同じように売れてきたのである。今では、高品質の豚肉、鶏肉を扱っていないところは少ない。また、扱っていないようなところでは、売り上げも利益もとれなくなっており、対応策は無くなっている。この流れに対応できない小売業は、消えていく運命だ。

このような、直接肉を消費する小売業の志向は、当然外食や惣菜にも影響している。今まで、小売業と外食のニーズは、外食企業が先にリードするタイプと、逆の場合とあった。ハンバーガーなどは完全に外食、ファーストフードからである。フライドチキンもそうだ、しかし、オーガニック(有機栽培)の野菜は、小売業や宅配業が昔から扱っていたものが、最近になって急速に外食業界に浸透してきている。

この豚肉の場合は、もともと小売業が高品質なものを扱っていて、それが最近になって外食企業に取り入れられてきたものになる。外食企業はここ数年の間に、バブル崩壊から、低価格路線を走ってきたために、消費者の安心や、高品質ニーズを考えている余裕はなかった。しかし、不景気が一段落したのを受けて、今度は急速に高品質路線が始まってきているのである。今では、オーガニック野菜を多くの外食企業が先を争って導入している。

以前は、「一部の野菜に、オーガニックを取り入れたら、それ以外の野菜や他の食材はどうだろう、と、顧客は不安がるのではないか?」という危惧から、導入がためらわれた。しかし、そんなことは無駄な心配で、顧客は、自然にオーガニックサラダをオーダーし、その他の食材への心配もしていないようだ。これがわかったので、競って安全食材の導入を始めたのである。景気回復も大きく影響しているが、それ以上に、最近の消費者の安全志向は強い、ということがいえる。

伸びている豚肉の代表は2つあり、黒豚と、SPFである。黒豚については、どの程度黒豚のバークシャーの血統が入っているかという問題がある。純粋の黒豚などというのは、本場の鹿児島を中心に、全国で数万頭程度しかいないといわれている。純粋種は非常に数が少ないのである。

先日、黒豚96%のサンプルがあるというので試食をしたが、たしかに味が良かった。それだけでなく、この肉を一旦冷凍し、再び解凍して食べたら、冷凍する前の品質、味と、ほとんど変わりがなかったのである。これには驚いた。しかし、価格を聞いてびっくりで、キロ4000円だった。和牛並みの価格である。

黒豚で純粋種に近いものは、価格の点でも、量の点からも、ほとんど買うことは出来ない。普通黒豚の血が入っている率が25%程度だったらまだいいほうで、それ以下のものが多いようである。しかし、名前の方は堂々と黒豚と言えるので、これでいいのだろうかと、心配になる。どこかで「純粋黒豚」などという名前を見たことがあるが、「純粋」というならば100%のことで、そんな黒豚が小売りするほど集まるわけはないし、低価格で売れるわけはない、あれはどうなっているのだろうか?

純粋に近い黒豚は、不安定という欠点もある。体重や、ロースの重量、ロース芯の大きさ、背脂肪の厚さなど、大きすぎたり、小さすぎるのが多く出て、規格が不ぞろいになるのである。そのために、規格を一定にして納入しなければならないので、卸業としては困り、規格に合格する黒豚の肉に、一般の豚肉を混ぜて納入する所もあるようである。しかし、そんなことをしても、使うユーザー側が見ればわかるので、卸としては、それがわからないところに、黒豚と普通の豚を混ぜていれるようになってしまう。そうなると、見る目が無いユーザーが損をすることになる。直接食べる消費者は、このようなことは知らなくても、何となくその店に行かなくなってしまうのである。

こういった歴史のある黒豚であるが、ごまかしをやる業者は自然につぶれたりして無くなってきている。同時に、黒豚のおいしさを保ち、規格もある程度安定し、価格もそんなに高くない黒豚系も一部で開発されている。先日、ある黒豚のサンプルを食べたところ、味はいいし、価格もそれほど高くないようだった。ただ、味の点では、単純に黒豚の味ではなく、何となく引っ掛かるものを感じた。悪い意味ではなく、肉がもう少し締まっているような感じを受けたのである。要するに、いい要素が何かほんの少し入っているようで、どこか違う、という感じなのである。そこで聞いたところ、「実は、猪の豚が少し入っている」ということで納得がいった。ある高級スーパーではこの肉の導入をすぐに決めた。

豚の大元はイノシシである。輸入肉の分類でも、イノシシの肉は豚肉の中に入っている。イノシシというのは、肩の方が大きくて、豚肉はそれを改良して出来るだけロースやモモの方が大きくなるようにしてある。肩の肉というのは、良く運動をするために、筋が多くなり、肉質も硬くなる。イノシシが走っている姿を思い浮かべたら、肩肉中心で肉が硬そうだと想像できるだろう。骨太にもなるので、歩留まりは悪い。一方豚肉は、後ろの方を大きくしてあるから、肉が柔らかく、歩留まりもがいい。しかし、イノシシの肉は、身が締まって、味がある、味が濃いのである。

今もあるかどうかわからないが、以前、伊豆で、イノシシの肉を食べさせてくれる料理屋があった。豚肉と比べて、歯ごたえがあり、じつに味がある。今の若い人には「硬い肉」となるかも知れない、地鶏の肉も「硬い肉」と評価する若い人も多い。しかし、あの味は忘れられないおいしさ、食感である。

神奈川のある豚肉生産者グループでは、なぜ黒豚がおいしいのかを研究した。「黒豚は血統である、しかし、その欠点は、規格が不揃いだ。ところで、おいしさの元が、血統以外に無いのか?あればそれを規格が安定している豚の品種に取り入れたら、おいしい豚肉ができるのではないか?」と研究したところ、餌のサツマ芋も要因なのではないか?となった。

そこで、今まで生産をしてきたナチュラルな豚に、サツマ芋を食べさせたらどうなるか、長年研究をしたところ、おいしい豚肉が出来た。この豚肉は、首都圏の生協や、一部スーパーで販売しているが、肉だけではなく、加工品も作って、味が良く、好評である。

特にソーセージは屠殺直後の肉で作る特殊な方法である。これは、「温屠体」と言って、屠殺後数時間以内の肉を使って作る。肉がこれだけ新しいと、肉自体に結着力があるので、リン酸塩や卵白などの結着材がいらない。そのために、全く無添加で、食感もあるソーセージが出来るのである。そしてこのソーセージは最近大問題になっているアトピー、アレルギーの患者にもかなり対応しており、アトピーの子供たちが食べられるソーセージとしても売れている。

日本全体が高品質豚肉を求めていることは、小売業の売れ行きを見ればよくわかる。この流れに乗って、外食業は、コストだけにとらわれず、いい豚肉を取り入れることを真剣に考える時期である。今は、オーガニック野菜の導入で大騒ぎになっているが、それと平行して、今度は肉の安心、高品質ニーズに対応し始めるべきだろう。

柴田書店「月刊食堂」96/7月号より
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