これからのフードサービスで食肉に関して必要なこと

2013/05/24 18:17 に 松本リサ が投稿
1.熟成と鮮度を知ることで、最もおいしい状態の肉を提供できる

食肉をいちばんいい状態で食べるには、畜種ごとに違ってくる。0〜1℃の冷蔵庫で、牛肉ならば3週間程度熟成をすると軟らかく味が出る。豚肉だと、一般的には屠畜後4〜5日程度からおいしくなる。その後はバクテリアの状態によって、汚染がひどいと早く肉が痛んできたり、クリーンな環境ならば3週間程度まで熟成をしておいしくすることも出来る。ただし、豚肉の場合は屠畜後の枝肉の脊髄側洗浄を徹底的に行う必要がある。鶏肉の場合は、屠鳥後、12時間程度で熟成がほぼ終わり、それから24時間程度までがいちばんいい状態で食べることが出来る。その後は、クリーン度によって異なる。ラムの場合は鮮度が重要で、屠畜後枝肉になった後、出来るだけ早く食べるのがいい。急速凍結のものならば解凍をした後切り身にしてすぐ調理するのがいちばんいい。

このように、畜種によって、最もおいしく食べるための科学が全く違う。同じ牛肉でも、扱い方と提供の仕方で味が全く違ってきてしまうのである。アウトバックステーキハウスは、低グレードのチョイスをポーションカットセンターで熟成して提供しているので、おいしくて低価格のステーキを提供でき、急成長のもとにもなっているのである。あれを熟成しなかったら、価格は安くても堅くて味が無いステーキになり、成長は出来ていなかったはずだ。日本でも最近はソーセージなどの食肉加工品に熟成技術が活かされてきているが、これからのフードサービスでは、この熟成と鮮度をそれぞれの畜種について、どのようにメニューに活かすことが出来るかで競争力が違って来ることになる。


2.HACCP


食中毒の原因菌の8割は、サルモネラ、病原性大腸菌、腸炎ビブリオで占める。このうちのサルモネラと病原性大腸菌の大元は食肉と鶏卵で、それが空気や水、昆虫などを通して他の食品に伝搬をしていく。したがって食肉の扱いを注意することによって、食中毒の元をある程度押さえることが出来るのである。食肉の扱いは、消費者の安全のために非常に重要なことであり、それを行う方法はHACCPしかない。HACCPは米国の食肉工場で2000年の1月までにすべての食肉施設への導入が法律で規制されており、続いてカナダでも規制に入った。

HACCPというと日本では建物、施設、設備から入るような誤解があるが、決してそのようなことはなく、食品の安全性を確保するためのソフトウエアであり、一つのシステム、考え方である、知恵である。であるから、現在の工場のままでHACCPを導入することも出来る。製造工程の動線やゾーニングを考え、レイアウトを変えたり、工場全体と人の衛生管理を徹底することでかなりのところまで出来るのである。その上で、施設や設備を良くすることによってさらに安全性を高めることが出来、予算があるならば施設設備を改善したり改築新築を考えたらいいのである。セントラルキッチンでも全く同じ考え方でいい。先日も厚生省で話をしていて、日本でHACCPが施設設備を変えないと出来ないような誤解が出てきていることに、厚生省は困惑をしていた。これからの食品施設はHACCPを導入していかなければならないのだが、それは初期のレベルならばそれほど金がかかることではない。フードサービス側では、これらのことを踏まえたうえで、食肉の購入を考えていかなければならない。危害の多い食肉原料を知らずに買うことは、店での食中毒の危険性を大きくすることになる。フードサービスがHACCPを知り、店でも、自社のセントラルキッチンでも導入し、仕入れ先に対してもHACCPの目で見ることは、日本全体のフードサービスのレベルをあげることであり、業界全体を良くする元になるのである。


3.海外の食肉施設、フードサービス企業をたくさん見る


特に、米国、オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパなど、フードサービスと食肉産業の先進国の視察の機会があったら、どんどん行くべきである。トップが行っているならば、中堅、若い人を追っかけ行かせるようにするといい。食肉というのは「ミートサイエンス」という言葉でわかるように一つの科学なのである。食肉産業の中身は、単に基本的な食料を供給するといったレベルではなく、巨大な産業であり、それを行うための巨大な知識、知恵、技術がバックアップになっているのである。

米国テキサスのカレッジタウンという町にあるテキサスA&M大学は、米国の食肉と酪農を引っ張っている多くの経営者や技術者を出しているいくつもの大学の一つである。ここに飛行機で入ってまず驚くのは、大学の構内に飛行場があるのである。町の中には、大学ブランドの食肉加工品や酪農品が一般的に販売されている。多くの教育施設と生産設備があり、宿泊施設はヒルトンホテルである。このような環境を巣立った卒業生は世界に飛びだし、成功した人は大学に多額の寄付をする。

大型の屠畜場では、一日に数千頭もの屠畜処理をする、この量は日本全体の一日分に匹敵する。こういったところをたくさん見るのである。単に規模が大きいところを見るのではなく、運営の考え方、衛生管理、HACCP、そして事業経営、どうやって儲けるかまで学ぶのである。大学などの教育現場では、食肉のサイエンスだけではなく、商売の仕方まで教えている。卒業したらそのまま企業のパワーになることを教えているのである。だから、教授は屠畜場や多くのミートセンターにしょっちゅう出入りして、最新の現場状況まで知っている。フードサービスではマグドナルド大学などが有名であるが、多くのフードサービスの教育施設では、食肉のイロハから見極め方、数値から扱い方までを教えており、現場に戻ればすぐに実践できることが出来るようになっている。このような現場を見、その考え方、技術を日本のビジネスに活かすのある。


4.環境、資源、バイオ


グレンフェッドビーフの飼料効率があまりにも悪いので、地球資源を考えるうえでの問題になってきている。一方でコストが安く、環境対策にもなるグラスフェッドビーフのオーガニック飼育も行われている。環境対策においては、資源リサイクルによる生産活動が次第に活発になってきており、日本でもこれに挑戦する若い人も増えて来て、国や地方自治体も予算化でバックアップする動きが目立ってきた。

数十年未来を考えると、軟らかく風味のあるグレンフェッドビーフと、規格が不安定で肉が堅くしかしコストの安いグラスフェッドビーフがこれからは目的に応じて両方が使われるようになっていくだろう。グラスフェッドビーフも熟成技術を加えれば軟らかくおいしくなるので、この開発も一部の国と企業だけではなく世界中に普及していくだろう。これに加えてバイオ技術が生産をバックアップする動きはこれからさらに活発になっていく。また反対にバイオを全く使わない方向も確保されていくだろう。ナチュラルと最先端技術が食肉産業の中で両立していくことだろう。消費者運動も然りである。


5.コンセプトをはっきり


このような中で、食肉を最終的に顧客に食べさせるフードサービス側は自分が、自社がどの方向に行きたいのか、コンセプトをしっかりと持つことが、顧客を確保する原動力になる。ナチュラル志向の食肉を扱いたいのか、低価格なのか、熟成で大きな付加価値をつけたいのか、チキンやラムでの鮮度志向を打ち出したいのか、産地や生産者の顔を打ちだしたいのか。フランスのジビエのように季節とメニュー数が限定される方法もある。同じ考え方で地域、季節、数、量、などを限定する「クローズドマーケット」という地ビールや「今日の鴨は10人分だけ」といったマーケティング手法もある。「素材はすべて国産で生産者明示」式もこのところ人気だ。同じ品質、同じ規格にこだわらず、毎日顧客に「今日の牛肉の特徴」を説明しなければならない、といった手法も出てくるかもしれない。こうなってくると、規格化された百店舗のチェーン店ではなく、十の違うコンセプトのステーキハウスを十店舗持っている企業本部、というのも出てくるかもしれない。これからは個性が重要な時代でもある。

どのような肉を顧客に食べてもらいたいのか、自分の店は何を売り込みたいのか、企業の方向が定まっていれば、個性的な面白い人材も集まってくるだろう。このようになってきてフードサービスは、「業界」から「産業」に大きく成長していくのである。

柴田書店「月刊食堂」1998年12月号より
Comments