空飛ぶバクテリア

2013/05/25 16:25 に 松本リサ が投稿
有機、オーガニックブームで、寄生虫が流行ってきている。有機栽培、オーガニック食材は、安全、ナチュラルで伸びているが、薬品を使わないということは、虫がいるということにもなる。昔のキャベツなどの野菜にはよく野菜が出て来て、それを取って、洗ってからカットをして食べたのだが、今そんな虫が出て来たら、それこそ大騒ぎになって、返品、クレーム騒ぎになってしまう。有機栽培では虫が付き物で、虫も食わないのなら、味も良くない、などと本当のことを今の消費者にいったら、逆に文句をいわれてしまう時代だ。

魚にはアニサキスなどの寄生虫がいて、活魚の輸入が激増しているために、航空便の魚についた寄生虫が一緒に入ってきてしまうので、空飛ぶ寄生虫などといわれている。アニサキスは2日間、マイナス20℃以下に冷凍すれば死滅してしまうので、冷凍魚での問題はなくなる。チルド、鮮魚に問題があるのである。冷凍流通の回転寿司などの、低価格、一般的外食チェーンでは大丈夫だが、高級な寿司などに問題が出る可能性がある、という皮肉なものにになっている。

同じように、寄生虫だけではなく、人に危害を加えるバクテリア、ウイルスなどが、空を飛んで、短時間に拡散する時代である。フードサービス企業は、これがどのような状態になっているのか、認識しておかなければならない。

3年ほど前だったと思うが、「アウトブレイク」という映画で、エボラ出血熱の恐ろしさを一般に人が知った、さらにタイミングがよすぎて、そのころ本当にザイールでエボラが出てしまい、映画の上映中に現実に起ってしまった。映画の中では、エボラが米国に入ってきてしまって大変なことになったのだが、現実に起りうることである。アフリカで出現したウイルスは、旅行者や国際航空貨物に付いて、全世界に丸一日もあれば飛んでいってしまう。

米国でのO-157の原因を見てみると、水泳というのが夏になると多い。川や湖で水泳をしていて感染するのである。これは、近くに牧場が例えばあり、その家畜の糞が地下水を経由して川や湖に入ってしまうなどがルートになるようだ。また、その家畜の糞が乾燥をして、これが風に乗って遠くの方に吹き飛んでいき、行った先の農園の果物や野菜に付着をして、それでジュースを作ったら、それにO-157が入ってしまう、ということにもなる。現実に昨年も米国でアップルジュースやアップルサイダーでのO-157感染が報告されている。大手メーカーのアップルジュースに入ってしまったのが日本の新聞で報道されたので見た人もいるだろう。

台湾の口蹄疫も、中国本土から口蹄疫のウイルスが飛んできた可能性を指摘する人もいる。「黄砂」といって、中国の土が乾燥をして、それが空を飛んで東の方に気流に乗って流れていることは知られている。この中に口蹄疫のウイルスが入る可能性はあるのである。口蹄疫のウイルスは非常に伝播力が強いので、微量のウイルスが飛んできても、それが大きな被害の元になるのである。

沖縄の、ある、台湾に近い島では、台湾の口蹄疫が出てからしばらくして、島に飼育していた豚を全部処分をした。沖縄では台湾の台北よりも南に位置する島もあり、それらの島では台湾からウイルスが風に乗って飛んでくる可能性があるのである。

台湾の口蹄疫では、米国やカナダに豚肉調達をシフトしているが、この2つの国の供給力はかなりあるので、日本の豚肉の価格高騰などの混乱は、発生直後には多少あったが、今は落ち着いてきた。しかし、台湾国内では国全体の経済に影響が出るなど、混乱はまだまだ続くだろう。口蹄疫が終息するには何年もかかる。

ワクチンを使うと、そのワクチンにウイルスが対応してしまう可能性がある。そうなるとまた新しいワクチン、となって、混乱はさらに広がってしまうので、口蹄疫の解決には、すべての豚を処分するしかない。感染の可能性のある豚の生産地をクリーンにして、何年か清浄になるまで待ち、新たに豚の生産設備を整え、小豚から再開をし、肉になって安定して流通するまで、となるとかなりの時間が必要になってくる。5年ぐらいは必要、という専門家もいる。台湾国内では、これを機会に、抜本的な対策をしなければならない、という方向のようである。当然だろう。

この影響は、もちろん日本ばかりではない。先日メキシコの関係者と会っていたのだが、台湾の業界関係者がメキシコにもたくさんやってきて、メキシカンポークを買いに走ったので、一時メキシコの豚肉相場は3割も上がったそうである。また、ヨーロッパにも影響が出ている。デンマークは豚肉の輸出国で、日本にもかなり出しているが、ここにも台湾への話が当然やってきて、価格の上昇や、供給量があるかどうかの問題になっている。

口蹄疫に加えて、ヨーロッパでは追い撃ちをかけるように、豚コレラが出ている。ドイツ、オランダで発生をしており、4月中旬にはスペインにも出た。これらの国にもデンマークから供給が出来ないか、となってきているので、二重に混乱をしている状況である。

ヨーロッパと日本とは今までセーフガードの協議を続けて来ている。米国、カナダと同様に、ヨーロッパ諸国も豚肉を日本に輸出したいので、そのために障害になっている豚肉のセーフガードを何とかして欲しいと、日本側に働きかけている。この交渉の最中に、台湾の口蹄疫、同じ欧州域内の豚コレラと、問題が出て来てしまったので、どのように進めたらいいか、交渉方向がわからなくなってきているようだ。現在は中断中である。


このような背景を、デリ、惣菜の原料から考えると、衛生と安全性の問題、価格の問題、そして原料確保の問題が出て来る。

衛生と安全性では、かなりの危害が予測されるのだから、それに対応したシステムを構築しておかなければならない。そのためにはHACCPしかないのだが、HACCPの前に、基本的な衛生規範を企業内全員が知っておかなければならない。基本的な衛生規範というのは、簡単にいえば、フードサービス業における基本的な衛生管理知識と実行、及びその施設設備を整備しておくことである。基本的な衛生管理知識とは、手の洗い方、あるいはもっと元では、体をきれいにして、作業をする、ということである。O-157の対策の一つは、作業員が手を洗う、トイレに行ったら作業現場に戻る前に、決められた手順で手をきちんと洗う、ことである。あるいは、工場の整理、整頓、掃除、消毒を行う、機械の洗浄をする、防虫対策をしっかりとする、といった、要するに食品を扱う上の基本中の基本を行うことなのである。これがしっかりとしていれば、HACCPは比較的容易に進めることが出来る。逆に基本が出来ていないのにHACCPを実行しようとしても、書類と形だけになってしまい、意味がない。

価格の問題は原料確保と裏腹になる。以前は原料確保は、大きな単位では価格の安い海外から輸入する、そしてどの国から何を入れたら最も安いかが主眼だった。しかしこれからはそればかりではなくなってくる。食材によっては、安いのを探すのではなく、どこが売ってくれるかを探す、ことに移ってきている。例えば魚のイワシは、原料としてなくなってきているので、世界のどこからどのように入れたらいいか、各業者は探してきている。先ほどのメキシコの話だが、九州のある業者が銀行の仲介でメキシコにイワシの合弁会社をつくった。これは、イワシ原料の確保のためである。はるばるメキシコまで行き、しかもそこから買うというのではなく、合弁会社をつくるまで、重要な原料産地になっているのである。こうして原料を確保しなければ製品が出来ないのである。

総合食品研究所「フードライフ」97/6月号より
Comments