抗菌食品

2013/05/25 16:09 に 松本リサ が投稿
昨年の夏が過ぎたころ、「これから寒くなるから、食中毒はもうあまり出て来ないだろう」と言っている人が多かった。しかし、海外の事例などに詳しい専門家は、この見方に対して警告をしていた、「寒くなっても、O-157は猛威をふるう」と。そして、結果はご存知のとおりで、寒くなった北海道で8月末に、ホウレンソウのサラダで数十人の食中毒が出たのを始めとして、断続的に秋、冬、春と、衰えることはなかった。
O-157は97年に入ってからは集団での事故が、家庭レベルの個別の事故に変わっていったが、米国では8月にハドソンフーズ社の事故が出て、大規模な回収作業が出てしまった。ハドソンの事故では、ユーザーのバーガーキングが素早い対応をしたために、大きな犠牲を出さずに済んだ、このことは米国では好感をもってとらえられている。


食品に関する病原菌はいくつもあるが、最も力を入れて対応しているのは、サルモネラとO-157である。米国でもこの2つの対策に集中している。

サルモネラは、人、家畜、ペット、動物、爬虫類など、広く分布している。熱に弱く、63℃で30分の加熱で死滅する。潜伏期間は通常8〜48時間で、発熱のピークは12〜16時間。主な症状は、頭痛、発熱、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐で、時には死に至る場合がある。対策としては、ネズミの進入対策、食肉とこれからのに時汚染防止、加熱調理、低温管理、検便による保菌者の早期発見、などである。

O-157は、もともとは牛を中心とする家畜の腸管にいて、大腸菌が変異したものではないかと見られている。それが人に感染すると、下痢などの病原性を発揮する。しかし最近は水の中に数週間生息が出来るように変異したという見方が多く、野菜、果物、その他食材の全てに危険があると見た方がいい。事実米国ではリンゴジュースからも感染が出ていて、政府は「生のジュースはその旨表示すること」という指導を出している。潜伏期間が長いため、サンプル食材は2週間保存しておく必要がある。症状は、頭痛、発熱、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐などで、体力の弱い老人や、抵抗力の弱い子供の場合、死に至る場合もある。対策は、食材と調理器具の加熱処理、低温保管、井戸水の消毒と水質検査、手洗い。


サルモネラとO-157の最近とこれからの見通しであるが、日本においてO-157が猛威をふるっているが、まだ収まらないだろうというのが専門家の見方である。イギリスにおいて数年前にO-157が流行った年に、関係業界は十分な対策をしたのだが、翌年は更に増え、その翌年はまた更に増えた。4年目に入ってやっと事故件数が減ってきたのだが、今度は狂牛病の騒ぎになってしまった。

食中毒というのはこのような動きをするようで、O-157は、3年ほど流行が続くという特徴があるのかも知れない、という専門家の見方が多い。米国においてはサルモネラが流行った後、O-157の事故が続いている。日本ではO-157が大流行した96年に、「つぎはサルモネラだろう」という予測があった。そして97年に入ってO-157は相変わらず頻発しているが、同時にサルモネラも出ている。

米国ではサルモネラからO-157、日本ではO-157からサルモネラ、と言う出方になっているようだ。今後であるが、終息する見込みは全く無い。米国でHACCPをあれだけ導入していて、調理にも気を使っているにもかかわらず、全く終息していかないのである。病原菌はO-157が変異を続けているように、次々とへ強力になり、環境に素早く対応してしまう。O-157のDNAをよく調査しているが、ほとんど無限のDNAタイプがあるようだ、あれは、O-157が増殖しながら次々と変異していっているのである。今後も危機は無くならない。


このような背景に対して、抗菌食品、抗菌グッズが売れてきている。


納豆


納豆から、脳卒中や心筋梗塞の原因となる血栓を溶かす物質を抽出したのが倉敷芸術科学大産業科学技術学部の須見洋行教授だ。「納豆のネバネバした糸の中には、納豆菌が増殖する際に作り出すジピコリン酸という物質が大量に含まれている。そして、ジピコリン酸と納豆のその他の成分が複合的に抗菌作用を高めていると考えられる。」という。また「昭和十年代に海軍は国家事業として、パラチフスや腸チフスの薬として納豆を研究した。ジピコリン酸は諸外国での抗生物質の発見に先立って、日本人の海軍軍医が発見したものだが、ドイツ軍も納豆を食料や薬として実戦で使っていた。納豆菌がO81、O111などの病原性大腸菌に対する抗菌作用があることは十年も前からデータがあり、胃腸薬にも納豆菌が使われている」。実際の実験で、納豆の抽出液に、3万個あったO-157を40個弱に減らす抗菌効果が出ている。

秋田では腹具合が悪いときは納豆を湯でといて飲めばよいといわれ、関東大震災時も病気予防に納豆が売れたという記録がある。

ということで、納豆の売り上げは急速に伸びてきている。一世帯が、一か月に買う納豆の金額は、97年6月で310円、昨年同月比で15.7%増えている。いままで納豆をあまり食べなかった関西では、O-157の騒ぎの前から関西方面の伸びが目立って来ていたが、O-157騒ぎから、大阪、兵庫、福岡などの県で、40〜50%増で、これはO-157の発生が関西で多かったことも要因のようだ。また九州では96年の売り上げは前年より20%伸びている。

納豆関連の製品もでてこない来ている。くき食品(福岡県)が開発した「抗菌納豆」はO157の抑制に有効な酸を一般の納豆の約5倍含むという。「抗菌納豆飴(あめ)」は北九州市の菓子メーカーと共同開発、凍結乾燥させた納豆をあめでくるんだもの。


お茶


お茶の苦みを出す成分のカテキンは、コレラ菌や食中毒を引き起こす腸炎ビブリオ菌も死滅させるという実験データもあり、食中毒のほか、口臭や虫歯予防、がん予防、血中コレステロール値低下などにも効くという。水虫の原因となる白癬(せん)菌の細胞膜を破壊し、水虫を治すことでも知られる。これがO-157にも効果があることが分かった。

昭和大医学部の島村忠勝教授らはO-157に日ごろ飲む濃度の緑茶を加え、3〜5時間後に菌が死滅することを実証した。また、今年4月には国立感染症研究所でも、通常飲む緑茶に含まれるカテキンの量でO-157が作り出すベロ毒素の産出を抑える効果があることを解明した。

こういったことから、静岡などを中心としたお茶の出荷は急増しており、緑茶を積極的に取り入れる学校も目立っている。お茶関連製品も続々と登場している。お茶製品の大手、伊藤園では、カテキン成分を緑茶の3倍含む飲料「スーパーカテキン」も新発売した。


梅肉エキス


梅肉エキスやワインに、院内感染で問題となっている黄色ブドウ球菌(MRSA)の増殖を抑制する効果があることがわかった。また、梅エキスを1CC当たり5ミリグラムの濃度に溶かした水溶液にはO-157の発育を阻止する作用があることを、東京薬科大学の宮崎利夫名誉教授が突き止めた。1CC当たり1.25ミリグラムの濃度でコレラ菌の発育を阻止するという。

こういった背景から、主産地の和歌山県では「昨年産の貯蔵原料がなくなりかけた」という状況で、梅干し生産は96年、5年ぶりに4万トンの大台に回復した。関連製品では、アサヒビール薬品の梅肉を乾燥して錠剤タイプに加工した「梅ぼし純」も売れている。これでサルモネラ菌や腸炎ビブリオ菌などの食中毒菌を培養したところ、梅ぼし純が接する部分では菌が増殖しなかった。「梅ぼし純」の97年1〜4月の売り上げは累計で前年比32%増。取扱店も駅の売店を中心に3,500店舗だったのが、昨年夏から急増し、コンビニエンスストアやスーパーなど1万店舗を超えた。




調理器具を酢で洗浄するとO-157の抑制に効果があることはすでに知られていたが、酢を用いた「酢漬け」料理に、O-157に対する抗菌効果のあることが、中埜酢店が太田美智男・名古屋大医学部教授らと共同して行った研究でわかった。効果が確認できたのは紅白なます、ラッキョウ漬け、ショウガの甘酢漬けで、紅白なますとラッキョウ漬けは24時間後に、ショウガの甘酢漬けは48時間後にO-157が百個以下になった。サワードリンクでは5日後に5個以下になった。キュウリとワカメの酢のものやすし飯でも菌の数を増やさない効果が確認できた。

酢の濃度と抗菌効果の関連も明らかになった。アルコールを原料にした酒精酢を使った実験によると、O-157を十万分の一にするのに要する時間は原液(酸度10%)で1分。4倍に薄めた液(同2.5%)では2時間半かかった。

食酢の売れ行きは昨年夏から好調で、それまで横ばい状態だったのが、今年に入って前年同月比で3.6〜5.9%増。「タマノイ酢」は、食中毒菌を殺す酢成分を利用した野菜・調理器具用洗浄剤を発売したところ、売り上げは当初見込みの12倍にもなった。


乳酸菌


乳酸菌、ビフィズス菌は、母乳栄養児の腸内に常住するビフィズス菌は外部から入り込む外来菌を排除する性質があるが、O-157の増殖を抑制する効果があることもわかった。国立小児病院小児医療研究センターとヤクルト本社の共同グループが突き止めた。実験では、乳酸菌飲料(ヤクルト)とビフィズス菌ヨーグルト飲料(ミルミル)に大量のO-157を直接、混入させたところ、乳酸飲料中では20時間、ビフィズス菌ヨーグルト飲料中では48時間でO-157が全滅した。また、いずれの場合もベロ毒素の量が100分の1になっていた。


モズク


水産物加工販売の「海産物のきむらや」(鳥取県)は八日、島根大学との共同研究でモズクに病原性大腸菌O-157に対する抗菌作用があることを発見、特許庁に特許を申請した。

実験は、三杯酢で調味した味付け沖縄モズク、味付け糸モズク、味付けメカブを使い、人間の体温に近い37℃と食品の冷蔵温度である10℃で、O-157を大量混入、生理食塩水やM9最少培地(大腸菌の培養に使う培養液)との比較実験をした。その結果、37℃ではO-157がM9最少培地で増殖、生理食塩水では菌数がほぼ変わらなかったのに対し、モズクやメカブでは1グラム当たり百万個の菌が24時間後には検出されなかった。


食品以外にも、またいた、食品用抗菌フィルム、抗菌の鋼板パネル、抗菌・抗カビ剤入りポリ袋、抗菌塗装など食中毒対策を強化したスーパーマーケット用冷蔵・冷凍ショーケース、O-157などを殺菌できる車体を持つトラックなど、関連の製品、システムも続々と登場している。


総合食品「フードライフ」97/10月号より
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