開発者は間違える・・・ことが多い

2013/05/24 2:10 に 松本リサ が投稿
新しい商品を開発したり、今まで販売していた原料素材である牛肉、豚肉、鶏肉など、素材の変更を考えたりする場合、まず内部でその検討を行い、その後実行に移すことになるのだが、この過程で特に注意しなければいけないことがある。それは、開発者の「思い」は、そのまま消費者に伝わらないことである。また、開発者が「こちらの方が美味しい」「こちらの方が安いから売れるはずだ」と判断しても、そうは行かないことの方が多い点である。

あるスーパーで、豚肉の相場がかなり下がってきているので、売価を下げて消費者にサービスしよう、と同時に、売価を下げれば量を買ってくれるから、売り上げは変わらないか、逆に増えるだろう、という希望的予測で売価を下げたところ、売れる量は全く変わらなかった。つまり売り上げは減ってしまった。その後相場が上がったので売価を上げたところ、顧客から「値上げした」と文句たらたら言われてしまった。まじめにやってみたら、結果的に顧客に受け入れられず、不信まで買ってしまったことになる。開発者は間違えたのだ。

あるコンビニエンスチェーンで、蕎麦、うどん、なべ物セットなどに入れる七味唐辛子を高品質に変えることを検討した。普通の小袋の唐辛子は1円ぐらいなのだが、検討中のは4円以上する。開発者は試食を繰り返し、専門家は美味しくなることを確認したのだが、一般消費者を数人集めての試食会では(味の違いは)わからないというのが大半だった。そこで、これだとわからない顧客が大半だろうから、何もしないでいい、という事になりそうだった。しかし、一部の開発者はそうは判断せず、(味が)わかるかわからないか、売ってみないとわからない、という事で、一部の商品の唐辛子を変え、なんの表示もせずに黙って1月ほど販売をしてみた。その結果、変えた商品だけがじわじわと伸び続けてきたのだ。そして、全ての唐辛子を変えたら、それらの商品はぐんぐんと売り上げを伸ばしていった。売価は変えなかったが、売れたので、唐辛子のコストアップ分など吹っ飛んで利益に十分貢献した。開発者は間違えたのだ。

これもあるコンビニエンスストアチェーンで、本格的な、ニューヨークの街角で売っているようなホットドッグを開発した。米国のソーセージを直輸入し、ソフトフランスパンを焼くためにヨーロッパからオーブンを輸入し、ケチャップなどを使わずマスタードだけを使うようにし、パッケージデザインに凝り、開発者はとても美味しく出来たと判断し、さて販売を開始したらたいして売れなかった。何がおかしいのかわからなかったのだが、もしかするとセンスの問題(このチェーンは北日本に展開をしている)かもしれないと考え、田舎風にしてテストをしてみた。ソーセージだけは美味しいのでそのまま使うが、パンは普通のロールパン、ケチャップと辛子を付け、パッケージは普通の田舎くさいトレイパックにして売ってみた。何となくいやな気がしたのだが、その通りによく売れてしまった。開発者ががっかりしたのだが、売れるのが正解である。開発者は間違えた。

こういったことを防止する簡単な方法はある。全店ではなくいくつかの店舗でテスト販売をしてみればいいのだ。中国地方に展開するスーパーマーケットチェーンで、牡蠣のメーカーを選ぶことになった。2つのメーカーの製品のグレードと価格は同じで、違うのはパッケージデザインだけだった。一方の方には黄色い小さなワンポイントマークが入っているだけの違いだ。3店舗だけ選び、陳列ケースに置く場所を1週間づつ左右交互にし(顧客の買い物の流れの方向で売れ行きが左右するので)2週間テスト販売をしてみた。結果はワンポイントマークが圧倒的に売れた。なぜこのようになったのかだが、しばらくあとで著者の友人のカラーコーディネーターに聞いたら「黄色のワンポイントというのは、食欲をそそる色」だという。そこで思い出した、大阪の店で、バーベキュー用の串刺しの一番上に「黄色いもの」例えばピーマンとかコーンを刺すと「よく売れる」といっていたのだ。売ってみたら、理由はわからないが、どうすればいいかはわかったのだ、もちろんワンポイントに決定した。

2000年の7月に、ある大手メーカーの飲料製品が「さび臭い」というクレームが出て、回収騒ぎになった。この製品をメーカーで官能検査をしたとき、一部の検査者から「さび臭い」「少しフレーバーが違うような気がする」という意見は出ていたのだが、この程度ならば顧客はわからない、と判断をして販売ルートに流してしまったら、回収騒ぎになってしまったのだ。原因は原材料の一部が高温による温度変化を起こしたようだということらしいのだが、ここでは検査者の判断に対して判断を間違えた。顧客はわかってしまったのだ。

鶏肉に限らず、食肉の素材を変える検討をするときや、飼料や飼育方法などを変えてグレードアップなりコストダウンなりを開発するという大きな検討をする場面が最近多くなりつつあるが、開発者の判断だけで進めることは、これらの例からもやめたほうが良いことは明白だ。では良い方法はというと、テスト販売をしてみることである。例えば百店舗あるのだったら、数店舗を選び、テスト販売をするのだ。変えたことを顧客に伝えたいという方向ならばその通りにキャンペーンを店舗単位でうつ。そうでなくそっと変えたい場合は何もしないで(唐辛子の例のように)売ってみる。価格を変えたい場合も同じだ。

食肉素材を変えるというのは大きなリスクを伴う。原料素材のコストダウンを計って、低価格にして売る作戦をする場合なら「低価格路線にし、顧客獲得に成功」という期待があるわけだが、「単価を下げた、しかし量は売れない、そして売り上げは落ち、利益も落ちた」という結果が出るリスクが大いにある。ハイグレードにして単価アップにする作戦ならば「高品質で、利益も売り上げもアップ」という期待だが、しかし顧客は「高品質化で価格は同じなら歓迎、しかし価格が上がるなら今までのままで良い、変化嫌い」という事になるリスクもある。開発者が失敗しないための方法は、テスト販売してみることが一番だ。

「鶏卵肉情報」00/09月号より
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