ひき肉、ミンチの上手な扱い方

2013/05/25 17:00 に 松本リサ が投稿
ハンバーグやミートボール、高級メニューではミートローフや、丸鶏のローストのスタッフィング(詰め物)など、ひき肉は用途が広い。しかし、安いもの、という認識で、この重要なものがおろそかにされている面がある。
ひき肉はとてもデリケートで、温度や挽き方、管理で、品質がすぐに変化してしまうものである。このひき肉の品質によって、料理の品質が大きく左右される。ひき肉をどのように作り、扱ったらいいのだろうか。

いい機械を使う。手作りでは、ナイフで切る方法も

ひき肉を作るのには「チョッパー」という機械を使う、英語では普通「グラインダー」という。この機械は、端材の肉を圧縮して、ナイフで切りながら細い穴を通してひき肉を作る。そもそもひき肉というのは、残った端材の肉をまな板の上で包丁で小さく切っていたもので、「チョップ」というのはぶつ切りのことである。昔のプロレスの力道山の「空手チョップ」の「チョップ」である。
これで重要なのは、よく切れるナイフで、肉をつぶさないで、きれいに切ることである。肉の繊維をつぶしてしまうと、肉のドリップが出て、味が悪くなるし、傷みも早い。したがって、手作りで、おいしいひき肉を作るのならば、チョッパーを使わないで、包丁で切って作るのがいい。鴨のタタキを作るときに、骨と一緒にまな板の上でていねいに包丁でたたいて作るが、あれと同じである。
しかし、大量につくるにはそんなことはやっていられないので、チョッパーを使うことになる。チョッパーの性能でひき肉の品質が変わってくるのは、このためである。チョッパーにパワーが無いと肉がつぶれてしまう。チョッパーに付いている刃が切れなくても、いいひき肉が出来ない。

原料
ひき肉は安いものだからといって、傷みかけた原料肉を使う傾向があるが、とんでもない間違いである。鮮度のいい原料肉を使わないと、いいものが出来ない。肉というのは形が小さくなればなるほど傷みが早い。ひき肉は最も小さい形の肉なので、いちばん傷みやすい。そんなものを作るのに傷みかけた原料を使ったらたまったものではない。
材料としては端材を使うのだが、肉の処理の時に出て来る端材は、すぐに冷蔵庫に入れて、痛まないようにしておかなくてはならない。また、ひき肉専用の原料も使うことが必要である。専用原料は、牛肉ではカウミートという、年をとった牛の肉とか、高品質なものは、グラスフェッド(牧草飼育)の肩やモモ肉のブロック肉のホールマッスルトリミングといったものを使う。こういった鮮度のいい専用原料に、端材を混ぜて作ればいいものが出来る。

米国はハンバーガーの本場だが、米国で生産されるハンバーガーパティの原料は2つある。一つはオーストラリアやニュージーランドからの低価格の赤身牛肉で、赤身率が90%以上ある。もう一つは米国内のミートパッカーから出て来る牛脂肪である。この2種類をミックスして作る。であるから、パティを作るのは、牛肉の脂肪が出て来るミートパッカーで作ることになる。
ハンバーガーパティはあまり赤身が高いと、パサパサでおいしくない、最もおいしいとされる赤身率は、78〜81%といわれている。20%程度の脂肪率がいいということである。低価格の赤身と、ミートパッカーからの脂肪をうまく組み合わせて、味のいいパティを作っているのである。
この方法は、レストランレベルでも行うべきである。牛肉の脂肪が最もおいしいのは和牛のものである。豚肉ならば黒豚、といったところだろう。普通の赤身肉に和牛の脂肪を混ぜてハンバーグを作ると、和牛の味がする。脂肪が肉の味の中心になるのである。だから、全部に高い和牛を使わなくても、脂肪だけ和牛のものを使えばかなりいいものが出来る。大分以前、クジラの肉がいくらでも食べられるころ、クジラの赤身肉の切り身を、和牛の脂肪でステーキにして、新米の肉屋に食べさせたら、だれもわからなかった、全員が牛肉のどの部位なのか考えていたのである。


赤身率(脂肪率)とミックス計算

赤身率だが、正確な赤身率を出すには、ファットアナライザーという測定機が必要だ。小型の店で使えるもの(2003/7月注:小型の測定器は、米国のメーカーが無くなってしまい、手に入れられなくなってしまいました。現在あるのは「アニルレイ」というエックス線を使ったセンター用のもので、極東貿易から2000万円ぐらいで販売されています)から、ミートセンターで使うエックス線やコンピュータを使うものまである。これを使って原料肉の赤身率をはかり、それに脂肪を何%入れて作ればいいかを計算するのである。赤身率が高いと、原価が高くなるうえに、パサパサでおいしくなくなってしまう。脂肪が多すぎると、味がくどくなり、調理後の歩留まりが悪くなる。正確な脂肪率にするのは、売れるハンバーグを作るうえに重要なことなのである。

赤身と脂肪のミックス計算をする方法だが、たとえば、赤身90%の肉に、赤身20%の脂肪をミックスして、赤身80%にするためには、どうしたいいか?となった場合、正式には二時方程式が必要になる。しかし、そんな数学はとっくの昔に忘れてしまっている人が多いだろう。そこで、米国の食肉ビジネスをしている人が使っている便利な方法がある。
まず、四角形を書き、中に対角線をいれる。左の上と下にそれぞれの赤身率の数字を入れる。そして、作りたい赤身率の数字を入れる。次に、対角線の方向に、数字の差を出す。
この例の場合は、左上に、「90」左下に「20」真ん中に「80」と入れ、対角線の差を出すと、右上が 80 - 20 =60、右下が、90 - 80 = 10、ということで、赤身90%対20%の原料を、60:10、つまり「6:1」にして混ぜればいい。

温度管理

ひき肉を挽くときは、温度管理が重要である。温度が高いと、鮮度が落ちてしまうし、ドリップが出て、傷みが早くなる。冷凍原料の温度が低すぎると、チョッパーが止まってしまったり、肉の繊維が氷が割れるように壊れて粉のようになってしまう。
牛肉の冷凍原料を引くときの温度は、マイナス2度から3度ぐらいがいい。豚肉の冷凍は、0からマイナス1度がいい。なぜこうなるか、いろいろと調べたり、学者に聞いたりしたがわからない、しかし、経験上からこの温度がいいことはわかっている。この温度は大変なノウハウのカタマリである。
生鮮肉の温度は、0度がいい。しかし、肉の凍り出す温度はマイナス1.8度なので、出来るならば0 〜 -1.8度の間がいい。

ひき肉に限らないが、肉の鮮度を保つ方法として、冷塩水処理という方法が古くから行なわれている。氷を入れた冷たい水の中に肉を浸けて、急速に肉を冷やすのである。塩水は肉の塩分とほぼ同じの0.9%程度にする。塩分濃度が同じことで、肉の塩分が外に出ないし、塩水の塩分に肉が影響されることもない。時間は、小さい端材などの肉なら数分、大きなブロック肉ならば20分程度入れておく。こうすると、肉の鮮度をよみがえらすのではないが、肉を引き締めることになって、いいひき肉にすることが出来る。
この方法はひき肉に限らず、痛みやすい肉、内蔵肉などを使う前に冷塩水処理をすることによって、臭みもなく、色もいい状態にすることが出来る。魚にも使える、魚の場合には塩分濃度を海水と同じ2〜3%にするといい。

挽く手順

赤身肉と脂肪を粗びきにしてからもう一度挽く「2度びき」をするといい。直径9ミリぐらいの大きなプレート(チョッパーの先端に付ける穴のあいたもの)などで大きくカットをしてから、普通は3ミリのプレートを通す。3ミリというのは、マグドナルドをはじめとして、世界のハンバーガーパティの標準になっているものである。この大きさだと、これよりも大きなスジが通らないので、安全なのである。もちろんこれよりも小さなプレートもあるのだが、小さくなると肉の食感が無くなってくる。
肉の食感を出したい場合には、粗びきをそのまま使えばいい。工業レベルで大量につくるには、スジのリスクが大きすぎるので出来ないが、レストランレベルでならば出来る。原料肉のスジを完全に取り去ってから粗びきにしたらいい。

柴田書店「月刊食堂」96/5月号より

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