古くしてみたら、長くしてみたら

2013/05/24 0:50 に 松本リサ が投稿
酒類は、長く熟成させると旨さが増してくるものが多い。ワインは代表的なもので、ビンテージ(年代)によって価格が違う。とは言っても、古ければよいというものではなく、その年に収穫した葡萄の状態、ということは気候の状態ででワインの質は大きく違ってくる。

毎年11月の第三週はボージョレーヌーボーの週で、同時に著者の誕生日があることから楽しみな月だ。誕生日前後1週間はバースデー割引で日本中どこに飛ぶのでも一万円なので、このあたりに出張、ついでに遊びと、忙しくなり、旅の途中で今年のボージョレーヌーボーを飲むことになる。

最近のボージョレーヌーボーは3年連続で「最高」と来ていて、昨年はまたまた「最高」といううわさだったが、飲んでみたら本当だった。

ヌーボーは収穫したての葡萄でつくった新酒ワインで、豊饒とか熟成と言った言葉は関係なく、出来立て、新鮮、若さ、といったもので、味わうのではなく、収穫祭のお祝いワインと言ったところだ。ところがここ最近は実に味のあるものになっている。これは気候のせいだとも言われていて、昨年の夏のヨーロッパの気候が最悪、猛暑だったことで、葡萄もぎりぎりまで痛めつけられた。このようになった葡萄で造ったワインは高品質になることが多いのである。収穫は少ないが、美味しく、高値になる。

ヌーボーの作り方は普通のワインの作り方ではなく、早飲み用の特別の製造方法で行う。だからヌーボーはいくら美味しい年でも、何年取っておいても熟成してよくなることはない、すぐ飲んでしまう性質のものだ。ではなぜこれがあるのかだが、一つは昔売れなかったボージョレー地方のワインを売るためのアイデア、もう一つは、その年に採れたワインが、どのような熟成過程をたどるか、美味しさのカーブはどのようになるかを、ヌーボーで見極めるためでもある。

数年後に向かって次第に美味しくなるが、それからは平行線をたどった後、品質が落ちていくもの。あるいは、数年間は変化はないが、その後次第に旨味が増していき、数十年の先まで徐々に着々と美味しくなる最高レベルのワイン。逆に2〜3年以内に飲んでしまったほうが良いワイン。さまざまなタイプがあり、これのカレンダーもある。各ブランドのビンテージごとに、いつ美味しくなるのか、駄目になっていくのか等が、一覧表になっている。これを見たい方は東京恵比寿の三越の端にあるワインショップ「パーティーズ」(パーティーだったかもしれない)に置いてある。

古くなり方、熟成の過程が、品質、美味しさを左右し、それによって価格が違っていくわけだ。

沖縄の焼酎だが、出来たボトルを海底に1年間沈めることで、熟成に成功したところがある。1年間も沈めておくと瓶の回りにフジツボのようなものが付着して、まるで数十年も前に沈んでしまった船から見つかった、という状態になっており、この状態のまま発送する。

紹興酒も年代によって価格が違い、ある程度の中華レストランに行くと、3年もの、5年もの、12年ものなどとレベルがあり、長いほど高く、味も濃く深い。

 

これが食肉では肥育、熟成になる。

オーストラリア国内で食べられる牛肉はイヤリングビーフと呼ばれていて、12〜18ヶ月程度の若い牛を屠畜する。これだとさっぱりとして、価格的にも急成長が終了したころになるので、安く出来る。しかし日本向けには更に飼育したうえに、最終仕上げでは穀物中心の飼料に切り替え、百日、百五十日といった長期間肥育させてから屠畜する。マーボリングといって霜降りが入り、日本人向けのこってりとした味になる。付加価値を付ける期間、成長効率は最悪で、コストが高いが、その分高価格で売れることになる。

屠畜されて枝肉になってからの熟成は更に付加価値を付ける。一般的には二週間ほどで熟成され、柔らかくて旨味のある肉になるが、更に長く熟成させることでもっと高級肉にすることが出来る。

ニューヨーク、セントラルパークの東側はブランドショップなどがあって「アッパーイースト」と呼ばれ、お金持ちの住む町だが、この中ほどに高級食肉専門店「ロベル」がある。ここの売りは熟成した牛肉で、昔からのウッドの冷蔵庫に枝肉や骨付きのロインブロックのまま熟成した牛肉を売っている。熟成庫の一部は歩道からガラス越しに見ることが出来、熟成庫そのものがショウウインドウになっている。先日ロインステーキを二枚買ったら日本円で四千円ほども取られ、米国ビーフの価格とすれば異常に高い。しかしホテルに持ってかえって焼いたら実に美味しい。この店には大物政治家、経営者、大金持ちといった人達の「執事」が買いに来るが、ステーキ二枚などと買う人はいないようで、これは三週間、あっちは一ヶ月との説明を受け、ロイン骨付きブロックのまま買っていく。

 

鶏肉では以前は胸肉がパサパサでなかなか売れなかったものを、24時間熟成をすることで、パサパサ感をジューシーにすることが出来、旨味も出るようになったことから、販売の考え方を変えることが出来るようになってきた。熟成した胸肉を使ったメニュー開発や料理提案が新たに出て来たわけである。

鶏の飼育期間を長くすると、脂肪とイノシン酸が増え、水分が減っていく。脂肪はさっぱりしたものではなくコッテリ感のある黄色い脂肪になっていく。地鶏の鍋をすると黄色い脂肪が鍋の上に浮いてくるものがあるが、これが旨い。イノシン酸は旨味の元なので、これが増えると美味しくなるわけだ。水分が減るということは、水っぽくなくなるということになる。コストは上がり、歩留まりは悪くなるが、美味しくなり、付加価値を高めることが出来る。

 

あなたの商品を、古くしたら、熟成させたら、長く何とかしたら、どうなるか?
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