エキスのソース

2013/05/23 18:33 に 松本リサ が投稿
福沢諭吉の頃の高級すき焼きをやろうというプランを何年も前からあたためていた。すき焼きというのは、肉を調理する道具が昔無かったので、畑を耕すのに使う鋤「すき」を熱して調理した、とか、肉を薄く切る剥身(すきみ)から来たとか、いろいろ説があるのだが、牛鍋もこの種類になる。

ある雑誌に解説されていた福沢諭吉の時代のすき焼きというのは、スライスではなく、一口大に角切りした牛肉を、現在使われているようなすき焼き鍋の中央にびっしりと並べ、その回りに長ねぎをクロスカット(斜めではなく直角に、つまり丸田状態)にしたものをびっしりと囲んで、それに割り下を入れて調理するというものだ。

肉をスライスして調理をするということは、肉の味、エキスが出て、それを野菜が取り込み、鍋全体として肉の脂肪とエキスで美味しくなるということになる。

これをへそ曲がりに見ると、肉のエキス、旨味を出してしまう、ということになる。それならば肉のおいしさを外に出さない、肉そのものの旨味を楽しむならば、ステーキ。おいしいステーキの焼き方は、最初に強火で表面を焦がして、肉のエキスを閉じこめる。肉を焼く前に塩コショウをするが、塩というのは肉のたんぱく質と反応して、熱をかけると一瞬で固まるので、これで肉の表面を固めて旨味を閉じこめやすくする。その後、中火か弱火にして、好みの焼き具合まで焼く。

こういうことで、この角切りすき焼きの魅力というのは、角切りにして肉のエキスが出にくいようにしたうえで、すき焼きの風味を楽しもう、という意味にとらえることが出来る。

このような調理に使える牛肉は、もちろん旨味たっぷりのものでなくてはならない。そこで毎月行っている米澤佐藤畜産の牛肉を使い、いつも行く米沢の料理屋「志乃」で行なうことにした。佐藤畜産は牛の生産から屠畜後の枝肉丸ごと買い戻し、小分けし、更に新しく建設した最新センターでスライスパックまでし、宅配までこなせる。生産牛舎は「弁当を食べられる」ほど衛生的で、牛もストレスなくのんびり育っている。「志乃」はこの牛肉を常に使っている美味しい日本料理屋だ。

問題は割り下で、志乃の大将に考えてもらったら「多分味噌系がいいのではないかと思う」という。これは牛の味噌味の鍋料理屋もあり、一致する、たいしたものだ。

関係者にちょっと声をかけたらすぐ八人になり、大雪の米沢に全員集合、期待と不安の中で始まった。とはいっても、本当はほとんど楽しい宴会感覚。

ネギ、コンニャク、それに佐藤社長が持って来てくれたイチボ(もも肉の一部)の角切りを味噌味ですき焼きにし、食べたところ「?」という感覚が走った。どうもピンと来ないのだ。というのは、この牛肉はいつも炭火で素焼きにし、塩だけで食べるという、実に素材の美味しさそのまま食べることばかりやっていて、それがこの牛肉の一番の食べ方に、歴史的に、経験的にわかっていて、何度もその味を楽しんでいる。

そこにこの味噌味になったので、どう表現したらいいかわからなくなったのだ。はっきり言って感動の美味しさ、ではない。物足りない、ぴったり来ない、「うまい!」という叫び声が出ないのだ。そこに女将が来て言った「佐藤さんの牛肉はやっぱり何もしないで焼いて食べたほうがいいんじゃない?」

そうだ、全くそうなんだ、女将の言葉で気が晴れた、改心した、すっきりした。これはもっと味の無い低級の牛肉の味をごまかして食べる場合にはいいだろう。

と、これで終わるかと思ったら、そうではなかった。

まだだいぶ残っている角切りを炭火で焼き始めた、塩で食べたらジーンと胸にしみる美味しさ。これだこれだと喜んで味わっていたのだが、横にさっきの鍋の底に残っているタレ状になった味噌ソースが気になり、角切り一個を試しに付けて食べてみたら「!!!」何と美味しいのだろうか。以下、この後関係者に出したメールから。

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昨晩、鍋にわずかに残った味噌たれ、美味しかったですねー。味噌に、牛肉の味と脂が、適度の加熱で絡みあってました。

残った牛肉何切れか、なごりのような炭に乗せ、いとおしんで焼いてから、溜まりの味噌をひっからめ、こづけご飯に乗せてから、ぽくっと食べたメニューの名前「米沢牛の味たっぷり溶け込み味噌溜まり付けちっちゃい丼」とでも言いましょうか。

あの仕上げの味噌タレ、製品化できませんかね? 牛スジか骨の味搾り出して。

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先日、日本橋の老舗の寿司屋に行ったら、牡蠣の握りが出て来た。こんなの初めて食べたのだが、舎利玉の上にちょこんと乗った小さな牡蠣に、牡蠣の風味旨味がたっぷりと詰まっている状態で、どうしてこんな「牡蠣の旨味ぎっしりと乗せ握り」なんて出来るのか大将に聞いたら。牡蠣をさっと湯にくぐらせて加熱した後、そのスープをぎりぎりまで煮詰めてそれに浸けるのだそうだ。美味しさを最後の一滴までしつこく食べるのだ。これには日本酒も加えるなどのノウハウも入っている。ずいぶん手間とエネルギーをかけてエキスを作り、それを牡蠣に戻すのである。

寿司でもう一つ、アナゴやシャコなどにタレを乗せるが、このタレを「ツメ」と読んでいる。アナゴを煮た汁を煮詰めて作った甘いたれで、これもエキス。

東南アジアには魚醤という調味料がある。魚介類の内蔵も含めて造った醤油状の調味料で、たくさんのアミノ酸を含むために濃い旨味がある。日本でも新潟などの日本海側で使われる。これを料理の時にちょっと使うだけで美味しさがぐーんと増す。これもエキス。

エキスの商品化を考えてみませんか?
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