対象顧客の見込み違い

2013/05/20 2:10 に 松本リサ が投稿

ある大手自動車メーカーが、再起を期して開発した軽乗用車を発売した。
この軽乗用車は、卵形で、軽快なデザインをしている。ある酷評では、メルセデスとスゥオッチが共同で開発した、ベンツの軽、等と言われている「スマート」のパクリだと言っていたが、言われてみればそのようだ。
設定した顧客のターゲットは、若い女性だった。
ところが、発売後フタを開けて見れば、中年以上の男性、おじさん世代がたしか6割以上を占めているという。どうしてこうなってしまったんだか、2007年問題がここにも出ているのか。売れてはいるが全く当てが外れたところに売れている。莫大な費用をかけたマーケティングと開発は、売れているから無駄にはならないわけだが、大きくはずれた。

コンビニで販売してたある菓子が、もうすぐ販売中止になると、ある顧客が販売員から聞いたので、あわててまとめて買い、帰ってからブログで「早く買わないと無くなっちゃう」と書いたところ、あっという間に情報が連鎖し、消滅寸前だったのに突然売れ出した。この動きで、この菓子は復活したどころか、大変な売り上げになり、ヒットになってしまった。

量販店や生産者、メーカーなどが困惑していることに、テレビによる食材の紹介がある。フルーツの何々は健康にいい、野菜の何々はこんな症状に効く、何々の脂肪を燃やす効果はすごい、調味料の何々は何とか効果が抜群、テレビの何とかショウで食材や製品が紹介されるたびに、店頭ではそれだけがどっと売れ、あっという間に無くなり、顧客の文句が来て、バイヤーは走り回り、相場は上がり、やっと確保して売り場が落ち着いた途端、忘れられ、売れなくなる。そして供給者には在庫が残る。

いったんは期待するから、手配するが、また見込み違い。

何年か前この連載の中で書いたことがあるが、数百店舗を持つあるチェーンで、ホットドッグの商品開発をしたことがある。米国のジューシーなソーセージに、ヨーロッパからのポメリマスタードを付け、パンは柔らかいソフトフランスパンにするために、ヨーロッパからわざわざオーブンを空輸し、パッケージデザインもデザイナーに依頼した。試食では最高の評価。これこそ本物のホットドッグだ、ニューヨークの街頭サンドイッチ顔負けの素晴らしいのが出来たと喜んだ。
ヒット商品間違いなしと、販売ルートに乗せるとき、私はふと一瞬「これでよかったのだろうか?」と、疑念が横切ったが、直ぐに忘れた。
売り出したら、たいして売れなかった。なぜだ?
いくつか売り場を観察した。何となくわかったような気がした。
このチェーンは首都圏からかなり離れたところに展開している。
もしかしたら、田舎臭いデザインでないと、なんだかわからないのかもしれない。地元の方に失礼ながらそう思った。

そこで、ポメリマスタードを、普通の練り辛子にし、ケチャップも付け、パンは普通のロールパンにし、パッケージは発泡スチロールのトレイにフィルム巻きというどこでもあるものにした。おいしいソーセージだけ残した。
再発売するとき、またいやな予感が、今度は明確に横切った。
もしかして、売れたら、どうしよう。最先端のデザインが駄目だったので、反対にしてしまったのが……
そして、予感は的中した。売れた、ヒット商品になったのだ。嬉しくもあり、悲しくもあり……
そういえば、ご飯の上に生姜醤油で味付けをした「ローストビーフ丼」が、東京で売れているのに、ある地方都市で同じものを出したらさっぱり売れず、名前を「焼肉丼」にしたら途端に売り上げナンバーワンになったこともあった。

軽自動車の例の場合、狙ったターゲットが全く違ったわけだが、食品の商品開発あるいはマーケティングの場合、車という製品と違って、テスト販売が出来る。
小さな規模では、店にそうっと置いて、売れるかどうか、観察をしながら、どのような顧客が買ったのかを調べることも出来る。
大手メーカーが行うテストマーケットは、静岡市や広島市だという。世界規模で英語圏を基準にした場合、ニュージーランドで行うものが多いという。日本の小さい規模なら、店舗でやればよい。

ブログやテレビというメディアは、何がどうなるか未知数の上、クレーム問題の破壊的拡大でわかる通り、十分に注意する必要がある。あるイベントで雇われたアルバイトが、自分のブログでそこに来ていた顧客のオタク的雰囲気を書いたら、そのアルバイトを雇った企業に総攻撃が行ったこともある。

ホットドッグの例では、小規模のサンプル製品を、数店舗で販売してみたら、ある程度予測ができたかもしれない。この場合、製品の味や品質ではなく、パッケージデザインが関係することがますます多くなってきている。ネーミングもパッケージデザインの一つだ。ローストビーフ丼を焼肉丼という商品名に変えただけで、ペケだった商品がトップになってしまうのだから。

この原稿を羽田空港の出発待ちあわせロビーで書いていたら、横にラーメン店があった。店の名前は「中華そば屋」、素朴でいい。そういえば、どこかの町で「支那そば」という看板があったので、会食に行く途中だったのに、足が向いてしまい、ふらふらと入りそうになってしまったことがある。名前が商売をするのだ。

顧客ターゲット、マーケティング、その町に合わせたデザイン、ネーミング、売れるのと見込み違いは紙一重かもしれない。

御社の製品に、そんなものはありませんか?
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