D:デリカテッセン

2013/05/24 1:46 に 松本リサ が投稿
これからの鶏肉のビジネスを考える際、世の中の動き、流れがどのようになっているかを見極め、それに乗る形でビジネスを構築していかなければならない。「川の流れに身を任せ」なんていう歌があったが、川の流れ、世の中の方向に反して動いてもうまくいかない、いかに正義感から抵抗しようとも、大きな流れにはかなわない。流れを見極め、その流れに乗りながら、その中で自分のビジネスをしていく必要がある。流れに乗ったうえでさらに流れの行く方向に少し加速をしていけば、他よりも少し先に進むことが出来る。ほんの少し先に進むと、これからの動きが見えてくる。そうしてから世の中のほんの少し先を先取りしてビジネスを行なっていけば、リードできる。では、そのほんの少し先には何があるのか、これから解説をしていくことにする。これはキーワードで説明をしていくが、アルファベットのDからSまでのトレンドとして覚えやすいように、理解しやすいように進めていってみる。


D:デリカテッセン


デリカテッセンは、簡単に翻訳すれば「総菜」だ。そして「素材から総菜」が加速してきていて、この流れはこれからさらに巨大になっていく。小売店に来店する顧客は、以前は肉、魚、野菜といった生鮮素材を購入して、家に帰ってから料理をしていた。しかし次第に料理をしなくなり、味をつけてあとは揚げるだけの「鶏肉唐揚げ用」とか、タレに漬けてあり、あとは家庭に帰ってからホットプレートで焼くだけの「たれ漬け焼き肉用」を購入するようになった。これがさらに加速されてくると、すでに揚げた唐揚げを購入するようになり、魚でも焼き上げたサンマを買うようになった。もともと素材を販売してきた小売店では最初これが信じられなかった。唐揚げは揚げたての方がおいしいのになぜ揚げたものを買うのか、焼いたサンマを買って帰って食べてもおいしくないのに、なぜ売れてしまうのか、なぜ家で調理をしないんだ、という疑問があるにもかかわらず、この流れはさらに加速してきてしまったのである。

この傾向を一般的に解説しているものを見ると、働く主婦が増えたから、夫婦共稼ぎが増えたから、以前の言い方でDINKS(ダブルインカム・ノーキッズ)といい、ダブルインカムは夫婦両方それぞれに収入があり、ノーキッズは子供がいない、そしてお互い仕事をしながらも優雅に生きている、という生き方が増えてきた。というような解説をしていることが多かった。しかしよく観察をしてみると、総菜を購入しているのは実は専業主婦が多く、時間のあるのになぜ専業主婦が総菜なのかも疑問に考える人が多かった。パートタイマーやビジネスを持っている女性は実は料理もテキパキとやり、おいしいものを自分で作ることも楽しんでいるのだ。という事はのんびりボーッとしている専業主婦は料理もしないで総菜を買ってごまかしているのか、という観察結果になるが、ある程度は正しいことなのである(全部とはいっていない)。

料理を「しない」のか「出来ない」のかという問題もある。だいぶ前に服部料理学園が募集した「お料理のユニークな失敗談」では、始めてご飯を炊こうと思って料理の本を見たらまず「洗米」をするというので、中性洗剤で米を洗ってしまったり、「キャベツの千切り」と書いてあったが、いくら薄く切っても「千」にならなかった、煮魚で「落とし蓋」をして煮ると書いてあったので冷蔵庫から豚肉を出してきて鍋の中に「落とした」、人参の皮を剥き始めたが、どこまでが皮かわからなくてそのうちに人参が無くなってしまった、といったことが本当にあるのである。ご飯の問題では、コンビニエンスストアの弁当総菜の中でどこでも売り上げのナンバー1は「ご飯」である。炊いてトレイにパックした「白飯」が売れ筋一位なのである。

食事に対する認識も崩れてきている。健康的な食生活というのは、多くのメニューをバランス良くバラエティ豊かに食べることなのだが、食生活をでたらめにして、オーガニックを求めたり栄養ドリンクを飲んだりダイエットコースに走ったりという間違いも多い。あるトレンド誌で紹介されていたのだが、結婚してから妻の料理のバラエティーが少ないのに気がつき、しばらくしてからどうしても耐えられなくなったので「もう少しおかずを増やしたらどうだ」と言ってやったら、その日の夕食にいつもの単品おかずに3品増えた、目玉焼き、スクランブルエッグ、ゆで卵、だったそうだ。こんな状態でいくら特定栄養補助食品をとっても何にもならない。

食材の知識も陳腐化の一途をたどっている。サンマとアジとイワシの区別の付かない人はかなりの確率だそうだ、ある団地での調査でアジの開きがあの状態でヒラヒラと泳いでいると思っている主婦は30パーセント近くに達したそうだ、数の子がタケノコのように土に植わっているのも居た、すし屋で聞いたのだがヒラメの「縁側」を縁側という魚だと思っている若い人はかなり居るそうだ。

要するに、料理をする時間が無いといった正統的な理由のほかに、料理を知らない、出来ない、認識が無いといった背景が重なり、その上で健康的食生活が出て来て、そしてこれが「素材から総菜」という事になってきているのである。


こんな中で鶏肉に限らず、食材を生産して提供するビジネスにおいてはどうしていったら良いのかになると、加工品を考えていかなければならなくなってきているのである。小売店やフードサービスといった食材を最終消費者に販売するという立場においても、調理技術が無くなってきたり、店舗でのカッティングやパッケージングの付加価値が付けにくくなったために、アウトパックを代表とする新しい形態に変化をしてきているのだ。

その中で、単にパッケージをするだけではなく、総菜レベルまでの加工品があれば、小売店ではそれを陳列するだけで利益が取れることになる。消費者のニーズが総菜になり、販売する小売店では出来上がった加工品を陳列するだけで素材をパッケージして販売する利益と同じ程度のものがとれるのならば、それを提供してくれるメーカーなり生産者に傾くのは当然のことだろう。

このことを裏返してみると、消費者や小売業者を楽にすることになり、見方によってはこれは「頭を使わないアホを作る」事になるのではないかとなってしまう。ある大手家電メーカーのコンサルタントがクライアントに対してある時このことが気になり、あまりにも簡単に使える家電製品を作るのは、世の中の人々の頭を弱くすることになる、社会のために存在する大メーカーがそんなことをしてもいいのか?とからんだことがあるのだが、しかし、売れなければ企業は成り立たないのである。

畜産製品の加工品を作ることは、設備や技術の面で軽く取り組めることではない、しかし、端材の処理ではなく、それを利益を取って売れる製品にする、例えばトリミングを使ってハイグレードなソーセージが出来れば、販売価格が大変身することになる。自社で出来なくても、専門メーカーと共同で取り組むなどの手法で進める方法もある。極端にいえば工場を持たないメーカーはコンピュータ関連などのハイテク製品にはいくらでもある、頭脳を使って世の中の流れに早く対応する方法がいくらでもあるのだ。

鶏卵肉情報センター「養豚情報」2000/4より
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