朝びきソーセージの薦め

2013/05/25 7:11 に 松本リサ が投稿
競争が激化してきているフードサービスでは、規模は大きなものにならなくても、少しでも独自のメニュー、売れるメニューが欲しいところだ。そこで、少し視点を変えた提案。

屠畜してあまり時間の経っていない新鮮な、もちろん冷凍などしていないチルドの原料を使って、朝早くから製造をし、それを夕方までに店に配送をし、その日中に提供するソーセージ。このコンセプトを取りあえず「朝びきソーセージ」と呼ぶことにする。

「朝びき」というのは、鶏肉で使っている名前で、朝屠鳥した肉を、その日の夕食には食べられるようにした高鮮度の鶏肉のことである。昔から鶏肉は新鮮なほうが美味しいとされ、朝びき鳥という一つのシステムが生まれた。鶏肉のおいしいのは、屠鳥してから12ー24時間までがいいというデータがある。その後は、保管状態やバクテリアの付着数によって、良い保管状態ならば数日に渡って、少しずつは劣化はするものの、美味しさはかなり持続する。保管状態が悪ければ、瞬く間に美味しさは落ちていく。昔は冷蔵庫もなかったわけだから、美味しい鳥肉はしめたてから、せいぜいその日中ぐらいしか食べられなかったわけである。

では、ソーセージはどうなのだろうか。このことは、ソーセージを作っている技術者が一番良く知っている。一番おいしいのは「出来立て」である。しかしこの出来立てソーセージを食べられるのは、工場の人と、もしその工場が直販をしていれば、その店に買いに行った顧客ぐらいしか食べられない。実際、朝作ったソーセージを店で販売しているある小さなハムソーメーカーは、このことを知っている顧客が多く、良く売れている。一般のスーパーマーケットにソーセージがメーカーから行くまでは、流通ルートと物流で何日かかかってしまい、顧客が出来立てのソーセージを食べることは不可能である。しかし、外食企業が工夫をすれば、朝びきソーセージは提供することが出来る。では、どうすればいいか。


ソーセージを作る過程というのは、原料肉と脂肪をグラインダーで挽き、サイレントカッターと呼ばれる高速のカッターで、更に水や調味料と一緒に細かくカッティングされる。この高速カッターで、肉、脂肪、それに水(実際には氷水)という普通は一緒にならないものを一体化させる。このことをエマルジョンという。エマルジョンをうまくするには、カッティング方法と適正な温度など、微妙な技術がいる。それに調味料をうまく組みあわせて下地を作り、これを今度はウインナーならば羊の腸、太いフランクならば豚の腸に詰め(ケーシング)、適当な長さのところをひねる。

この状態のまま「生ソーセージ」として販売することもある。工場では更にこれをスモーカーに入れ、桜などのチップでスモークをかけるのである。スモークをかける理由は、調理する、保存しやすくする、それにスモークの香ばしい香りを付ける、ということになる。

スモーク調理の後は、シャワーで洗われると同時に急冷され、出来上がりである。ここで出来上がったソーセージを食べると、最高のおいしさであるわけである。


さて、人気となるような朝びきソーセージを作るためには、いくつかのポイントがある。まず、原料である。冷凍などはもちろん使わない、新鮮な豚肉でなければならない。肉には熟成というものがあって、あまり新しすぎると味が出ていないし、硬くておいしくない。しかしこれはステーキなど、生肉をそのまま調理する場合で、ソーセージを作る原料はそうではない。「温屠体」といって、屠畜された直後の肉を使ってソーセージを作っているところがあるが、これは美味い。しかし屠畜場との関係があり、一般的にこのようなことはあまり出来ない。

特別なことをしなくても、新鮮な豚肉原料は手に入る。屠畜場から出る肉を業者経由で買えば、屠畜した次の日の肉が手に入る。ある首都圏の朝びきソーセージを造っているメーカーは、栃木県で生産した豚肉を生体のまま埼玉の屠畜場に運び、屠畜の翌日の肉を使ってソーセージを作っている。又、例えば仙台で屠畜した肉を翌日東京のメーカーに運び込むことも普通にできる。

豚の品質ももちろん重要である。最近は高品質の豚肉が良く売れるようになってきており、黒豚などの銘柄豚やSPFポークも増えてきている。ソーセージの原料を集める側としては、高品質豚肉の原料は実は集めやすい。というのは、多くのユーザー側が欲しい部位は、ロースやヒレ(ヘレ)などの高級部位で、肩部位、モモ部位、トリミングは余り気味なのである。小売店などが高品質豚肉を仕入れる場合、すべての部位のセットに加えて、ロースとヒレを何本、という条件で買うことが多い。では、追加になったロースとヒレをとられた豚の他の部位はどうなってしまうかというと、銘柄名を付けても売れないので、一般の豚肉にして売らなければならないことになる。価格も普通の豚肉と同じになってしまう。しかし、ソーセージ用の原料にするならば、それでいいし、そのブランド名をつけることも出来る。

原料の脂肪であるが、屠畜場の状況を見てみると、高品質の豚肉の背脂肪など、貴重な美味しい脂肪も、トリミングをした後わざわざそれだけを別にするほどの量がない場合、一般の豚脂と一緒にしてしまい、脂肪業者に回されてしまっていることが多い。黒豚のいいものなどは、実は脂肪が多く、歩留まりが悪い。これも原因で高価になっているのだが、この美味しい脂肪を使わない手はない。

ということで、豚肉原料は、高品質な脂肪も含めて、屠畜した翌日のものを手に入れることが出来る。


次に、メーカーである。まじめで、技術を持った職人、に作ってもらえばいい。「職人」という言葉がいやならば、名人、技術者、マイスター、要するに、真面目に、いいものを作る人、である。そして、地理的に近いところ。

そんなところはあるかといわれるかも知れないが、どんな地方にも必ず探せばある。小さなメーカーで、ドイツに行って覚えたとか、手づくりハムソーメーカーで何年も修業して店を開いた人とか、必ず見つかるはずだ。大手メーカーではやってくれないだろうし、頼むのも効率が悪くて悪い。でも、小さなメーカーならば、喜んで協力してくれるはずだ。単なるプライベートブランドではない、なにしろ「朝びき」で、職人のだいご味である「いい原料」を使わせてくれるし、作った分を全部買ってくれるのだから。

そのようなメーカーだったら、大体既においしいソーセージは作っている。その味が気に入ったのなら、そのまま使うのも手だ。但し、あくまでもこだわるのは「朝びき」である。その日の朝作ったものを、店に運び、その日中に販売してしまう。毎日「各店限定10皿」としたり、持ち帰りとして限定販売をするのもいいだろう。名物に持っていけたら面白い。さらに、週ごとに変えるとか、季節の野菜を入れた「季節変わりのサラダソーセージ」にするとか、飽きの来ないようにきまった曜日だけ置く、曜日によって味を変える等、いくらでも工夫が出来る。メニュー化でも、ドイツ風に「焼きブルスト」「ゆでブルスト」にしてもいいし、アペタイトでも、スープ仕立てでも、パンと組みあわせるのもいい。サンドイッチハウスやデリ、惣菜だったら「朝びきソーセージホットドッグ」も出来る。


新鮮生原料、職人技術、朝びき、このコンセプトであれば、ソーセージだけではなく、ベーコン、サンドイッチ用の太いポークソーセージ等も出来る。ロースハムは原料を揃えにくいし、高くつくのでやめた方がいい、あくまでも、手に入れやすい部位で、安く、高品質、高鮮度の原料を使ったものである。

柴田書店「月刊食堂」98/3月号より
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