産地ブランドと品質

2013/05/23 18:27 に 松本リサ が投稿
札幌の和食レストランの女将と、大間のマグロの話になった。

「マグロなんて、回遊しているんだから、どこで捕れても同じだと思うけど、どうして大間のマグロがいいのかしら?」

大間は青森県の下北半島の突端で、北海道が近いので、フェリーの乗り場がある。渡れば苫小牧で、札幌の人としては、同じ海域にいるのに、何で大間に上がったマグロだけ高く珍重されるのか不満げだ。

大間のマグロは、捕ったあとの品質管理が素晴らしい。

引き上げたらすぐに血抜きをする。牛を屠畜する前にストレスを与えると「ダークカッティングビーフ」といって、肉食が悪く、味も良くない肉になってしまう。屠畜直後の放血もしっかりしないと、これも品質の悪い肉になってしまう。マグロも同じだ。色も味も悪くなってしまう。

陸上げしてから氷詰めにするが、普通のマグロは、横に寝かせた状態、つまり当たり前の状態で、大型の発泡スチロールに入れて氷詰めにする。

しかし大間の場合、腹を上、背中を下にした上向けの状態にする。この状態にするには、最初に氷を入れ、中央をマグロの背中側が収まるように凹みを付けなければならない。

マグロの大きさにあわせて氷を丁寧に敷き、動かないような寝床を作るわけだ。

仰向けにマグロが上手く落ち着いて収まったら、その上から、開いた腹の中に氷を入れ、両側にも詰めて動かないように安定させる。こうすると、血が片側に偏らない。脂のあるトロの部分が上になるので、肉質も安定するのだ。

さらに、倉庫、物流中のトラック内での温度管理を慎重にして、多くは東京に運ばれることになる。

大間のマグロがいいのは、捕ってから市場に行くまでの品質管理が最高だからだ。

産地ブランドの名前だけでなく、高品質にしていることが、人気につながっているのだ。

 

もう十年以上前になるだろうか、秋田で捕れるハタハタを、秋田の漁協などの主導で、確か3年ほどだったか、捕らない時期があった。

これは、捕れるハタハタが次第に小さく細くなってきて、このままではハタハタの品質が落ちてしまうので、しばらく捕るのをやめて、昔のように太ったおいしいハタハタになるまで待とう、ということなのだ。

漁師の皆さんで反対する人もいたろうに、よくもやってくれたものだ。その成果がしっかりと出て、解禁になってから、秋田のハタハタは太っとくおいしい。

 

襟裳岬周辺で昔から採れていた昆布の品質が、じわじわと悪くなって行った。

原因がわからないままだったのだが、30年ほど前に、どうも陸から流れ込んでいくミネラルなどが悪くあるいは少なくなっているのではないかと考えられた。

そこでこの昆布の品質を上げるための活動が開始された。

陸に木を植え、成長させれば、何十年かしたら昆布が良くなる、というロマンにあふれる超長期計画だ。結果、昆布は復活した。

良い昆布は高く売れる。よい昆布には陸からの栄養がモノを言う。陸からの栄養を復活させるべく、植林が開始され、成功したのだ。

昆布の品質とブランドを、植林で復活させたのだ。

 

この原稿を書いている今朝、知床が世界遺産になったという報道があった。札幌と知床では大喜びだ。

実は、この報道の陰に隠れてしまっているが、知床の漁業の問題が裏にある。

斜里、宇登呂などの漁業に制限が出て来るという問題。これは、世界遺産からの魚というブランドと、制限が出て来た場合、たくさん捕れないという問題が絡む。

少ないもので、品質を良くすると、良い価格で売れる例はある。馬肉もその一つになりつつある。馬肉用の馬を育成する農家が減っていっているので、原料が減りつつあり、相場が上がって行く動きがあるという。

ヨーロッパの冬は、ジビエと言って、イノシシ、鴨、雉など、冬の間だけ獲っても良い野生の肉は、日本で言えば「時価」となり、獲れなければ高くなる、珍重されているのだ。

知床の魚は、世界遺産のため、漁業制限があるから、良質の魚が維持される。その魚を高品質に管理して売れば、付加価値が付くのではないだろうか。

 

二十年ほど前から食肉食鳥でもブランドが続々出て来た。初期は肉にブランドを付けるのは新鮮だったし、それなりのこだわりがあるところがブランドを付けていた。

しかし普及してくるにしたがって、単に名前だけ付けたといった程度のブランドが増えてきた。

今ではほとんどの食肉類にブランド名が付いている状態になってしまった。これでは差別化も何もあったものではない。

これからは品質重視のブランドが残っていくだろう。
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