ボリュームある煮込みメニュー、ブレージング、ポットロースト、骨付きハムの煮込み

2013/05/25 17:04 に 松本リサ が投稿
食肉の煮込みメニューは、低価格で、ボリュームを出すことができる。冬だけでなく、肉の味を芯から出すメニューということで、シチューなどを看板メニューにしているレストランも多い。シチューは、時間もかかるので、「じっくりと時間をかけて」とか、「何日間煮込んだ」といった訴えで顧客を引き込んでいる。肉の煮込みメニューは、日本ではほとんどシチューであるが、他にも、日本のレストランに取り入れられるものがある。

ブレージング

「蒸し煮」と訳す。3〜5センチぐらいに切った大きな肉の切り身を、厚手の鍋で、蒸し煮にする。肉としては、牛肉のショルダー部分、チャックロール、クロッド、ブリスケット、もっとボリュームを出して、肩甲骨の部分を、骨付きのままバンドソーでカットをした「セブンボーンステーキ」あるいは、ネックの部分を骨付きのまま使う「ネックボーン」など、筋や骨が入り組んでいる部分がいい。こういった部位は、ブレージングにすると、筋と骨から味がたっぷりと出るし、価格的にも安い。豚肉でもやはり、肩から前とか、ピクニック(腕肉)を使う。
鍋、又は厚手のフライパンでもいいが、熱してから肉を入れてステーキのように焦げ目を両面付けた後、スープ、又はトマトジュースを、肉がたっぷりと被るぐらい入れ、オニオン、人参などの野菜と、ハーブ系の香草を入れて、沸騰させないように2〜3時間ぐらい、蓋をして、蒸し煮にする。我々日本人向きには、醤油を少し入れるといい。沸騰させないで煮るのを「シマー」というが、野菜や肉を煮くずれしないようにするいい方法である。
シチューと同じようなものと考えるかもしれないが、シチューは、肉と野菜を煮込む、のに対して、ブレージングは、肉を、スープや野菜でカバーをして、蒸す、という、大きな切り身肉の「煮込み式ステーキ」ということになる。日本の魚料理で「落し蓋」をする料理があるが、似たようなものである。
盛り付けは、大きく、深めのプレートに、軟らかく蒸された肉を、崩れないように置き、その上に、蒸した後のスープをたっぷりとかける。
米国で、このブレージングは、最近では家族数が少なくなって、いつものメニューにあまり出なくなってきているようであるが、手軽な家庭料理としても昔から行われてきた。家庭でやる場合は、スキレットと言って、深めのホットプレートを使う。日本で焼き肉をやるホットプレートで、深さが5センチぐらいあるもので、これに肉を入れて焦げ目を付け、スープやトマトジュースと、野菜を入れて、午後からゆっくりと蒸しておき、その間主婦は、他の仕事をして、夕食時になってみれば出来ている、という筋書きになる。肉を切り分けて食べ、残ったスープにパンを付けて食べる。

ポットロースト

これは、ブロック肉を、たっぷりのスープでロースト、ゆっくり調理をするもの。普通のローストは焼くのであるが、これは煮る、蒸す、ことになる。ブレージングの、大型ブロック肉タイプ、と言ってもいいかも知れない。使う部位はブレージングと同じだが、切り身ではなく、ブロックでやる。
ブロック肉の表面に焦げ目を付けてから、寸胴鍋に入れ、肉がひたひたになるぐらいのスープで、沸騰させないように煮る。ブレージングよりもかなり時間がかかる、一晩は必要になる。無人で調理出来る低温調理オーブンが使えればそれが一番いい。
盛り付けは、切り身にして、スープをかけるのもいいが、肉が軟らかくなっているので、5センチとか、10センチ角位にカットをして、皿の上に乗せ、その上にスープをかけ、ハーブなどの香草をちょっと上に乗せる、などという方法だと、ボリュームが出る。
仔牛の骨付きのスネ肉を使った「オーソブッコ」というメニューがある。骨付きのままのスネ肉をトマト系の味で煮込んだもので、高級料理だが、これもポットローストの一種になるだろう。仔牛のスネは日本では手に入りにくいので、普通の牛のスネ肉を使ってもいい。骨付きでは流通していないので、肉のパッカーや、枝肉から肉を扱っているところに注文する。1本丸ごと煮込んでパーティー用のメニューにしたらすばらしい。
一般のメニューにするには、バンドソーで骨ごと数センチの長さにカットした「クロスカットシャンク」というのがある。シャンク(スネ)の部分だけでなく、モモの部分までも含まれる。スネの部分は、肉が少ないが、モモの部分になると、大きな切り身状になり、真ん中に丸い骨が入っていることになる。これを煮込んだらいい。この場合は、骨の髄がスープに出て、とても美味しいものになる。東京、青山の「アントニオ」というイタリアンレストランでこれを注文したら、骨の髄の部分に、耳掻きのようなスプーンが刺し込んであった。美味い髄をこのスプーンですくって食べてくれ、ということである。

骨付きハムの煮込み

「ハム」というのは、元々豚肉のモモの部分の名前である。その部分を加工したものを「ハム」と呼ぶようになり、日本ではそれが一般的な名前になった。しかし、米国などでは、豚の部分を普通に「ハム」と読んでいる。名前の由来はともかく、この骨付きのまま作ったハムが、最近日本でもよく売られている。食肉専門店などで、骨から肉をそぎ落しながらデモンストレーション販売をしているのをよく見るようになった。このとき残った骨を煮込む料理が、欧米ではよく行われる。
骨付きハムの骨には、筋や軟骨など、味を出すものが沢山付いている、これを野菜と一緒に3時間位煮込むのである。骨は、鋸などで2つに切り、骨の中の髄が出るようにしてから煮込む。出来たら、筋や軟骨をナイフで外して、ワイルドに食べる。
骨とスジを別々にしてもいい。骨の部分は齧って食べる、そしてスープは漉してから冷蔵庫に入れて冷やす、そうするとプリンのような煮こごり状になる。ゼラチンでこうなるのである。これを家庭ではスプーンですくって食べるのだが、レストランだったら、ゼリーケーキのように皿に乗せて、アペタイトとして提供してもいい。スープを漉した後、ケーキ型に入れて冷やせばいい。冷えた後、上に脂肪が白く浮いて固まっているので、それを外すと、きれいに透き通ったスープのゼリーが出来ている。

こういった大型で、調理に時間がかかるメニューは、一般的ではないが、今のようにレストランの売り物が必要な時代には、使えるメニューには入ると思う。
独立レストランならば、オーナーなりシェフが自分で調理すればいいのだが、ある程度のチェーンになると、そうはいかない。チェーンに入れるためには、自社センターなり、メーカーへのオーダーになる。ブレージングなどのメニューは、味の安定性はともかく、大きさ、形、厚さなどを均一にするのが難しい。しかし、それを克服すれば、小規模ながら、付加価値が大きくついたメニューにすることが出来る。食材が安い割には、目立つメニューだからだ。
大きさなどの規格は、これらのメニューの場合、ある程度は許されなければ出来ない。取り入れるためには、レストラン側がある程度の線で、規格には妥協する必要がある。そんなことよりも、ワイルドなメニューを集客に使う、という考え方が重要である。

柴田書店「月刊食堂」96/2月号より
Comments