白レバー

2013/05/23 18:24 に 松本リサ が投稿
一昨年だったか、仙台の国分町でなかなかしゃれた店を見つけた。魚と肉の両方を、純和風だけでなく、西洋料理風にも出してくれる。和風ビストロというべきか、和風料理もあるビストロというべきか。

酒は地酒、高品質焼酎、そしてワインの品ぞろえもなかなか。最初に行ったとき、低価格のワインは揃っているが、値ごろの中価格ワインが少なく、あとはかなり高級高価格のワインになっているので、私の好みと値ごろ価格を言ったら、翌日用意してくれていた。その後も時々行っている。

 

先日行ったら「ほろほろ鶏の白レバー」があった。フォアグラのほろほろ鶏版だ。

聞いてみると、やはりフォアグラと同じように、ほろほろ鶏に強制的に餌を食べさせ、肥大させたレバーだということ。

見ると確かに色は白っぽく、スライスした断面はねっとりと光っている。口に入れるとバターかチーズかといった舌触りで、きめ細かな肌のフォアグラだ。

このような食材というのは、ポピュラーとはかけ離れたものだが、希少価値、高級食材という分野で、微小なマーケットながら、ほんの一部の市場で息づいている。

 

ずいぶん前のことだが、銀座4丁目の角、日産ギャラリーの上に、以前は「モンセニュール」というレストランがあり、時々会食に使っていた。

あるとき米国から厨房機器メーカーの顧問シェフが息子さんを伴って来日したので、案内者の方と私も含めて四人でモンセニュールに行った。

このシェフはホワイトハウスの厨房にいたこともある方で、高品質の料理を、失敗無く一般のレストランやデリカテッセンストアでも出来る調理機器の開発とその使い方、ソフトウエアのために、顧問をしている。当然おいしいものには目がない。

この時は昼食だったので「今日のランチセット」というのがあり、それを注文することにしたのだが、当時の伊藤料理長に「その前に、何か前菜でも」と聞いたら、胸を張って「今日は、素晴らしいフォアグラがあります」という。

値段を聞いたらそれだけでランチセットよりもかなり高額なものになってしまう。フォアグラの加工品ではなく、フォアグラそのままのソテーなのだ。高いはずだ。

しかし、こういうシェフはそんな価格は関係無い、よいものは必ず食べ、研究する。当然全員分注文。

ワインを飲みながらぐちゃぐちゃしゃべっている所にフォアグラソテーが来た。赤ワインを使ってソテーしてある。かなり大きい。小さなステーキぐらいはある。何しろ丸ごとなのだ。

 

全員一斉に最初の一口を入れた途端、完全にフリーズしてしまった。

これはなんだっ、と、まずその風味が脳みそに到達した途端、過去の経験の中から、同じものを探しだすのだが、無い。初めての衝撃だ。

次に舌に戻り、ではこれはどういうもんなんだ、と考え、やっと「これはとんでもなくおいしいものだ」と判断する。

正体の一部がわかったので、少し安心して、一噛み二噛みする。

切り身の中に含まれていた軟らかい脂肪が、粘体となって舌に張り付き絡まる。

舌と上顎の間でつぶし始める。

夢のような味になって、口全体から鼻を伝わって、頭でやっと納得する。

口に入った分を、ヌメヌメと味わい、全部胃袋に行ってしまったあとの残り香りもしつこくフレーバーとして胸に吸い込んで、やっと最初の一口が終わった。

最初の一口でずいぶん体力と頭脳を使った。この間、だれも一言もしゃべらない。

ただおいしさぜーんぶを、料理として、情報として、体内に全て取り込みたい一心で、食べている途中で話す余裕なんて無い。

ずいぶん時間が経った、一分以上は十分に経っただろう。

全員一斉にため息をつき、やっと、ビューティフルだの、ウメーだのと、言葉が出て来た。

これだけのものは、味、食べ物のレベルを超えて、情報とか、イベント、お祭り、知性、生きててよかった、という大きなものになる。

落ち込んでいる人に「旨いもの食ってこい」という人がいる。私もそうだが。

おいしいものわかる人はこれで元気になる。

素晴らしい料理は人を豊かにするものだ。

 

食品というよりも、料理エッセイになってしまったが、そんな料理に使える食材マーケットがあるのだ。

 

仙台に話を戻す。この店は、奥に厨房があって、ちょっと覗ける程度の一部オープンになっている。

カウンターにはバーテンがいて、カクテルまで作れる。

この日はカウンターの中央にイベリコ豚の生ハムが、ブロックのまま専用のカットラックに厳かに乗っていた。

イベリコ豚というのは、スペイン産で、ドングリを食べさせた高品質の豚。

3割ぐらいが既に無くなっている骨付き腿一本は、断面がアメ色に輝き、分厚い真っ白な脂肪に囲われている。もちろん注文。

いろいろ頼んで食べていたら、私のところにだけひそやかに「これ、試してみてください」と、小さな串刺しを持って来た。

白レバーを角切りにして串に刺し、表面をちょっと炙ったのだ。

これは白レバーの刺し身とは全く別物になっている。

脂肪の表面が溶け、焼いた香りがふわっと出て、温かい。

高品質の「炙りトロ」といったところだ。素晴らしい。

白レバーは、生でも焼いても楽しめるのだ。

 

白レバーだが、鶏肉では「脂肪肝」というのがある。これもおいしい。

 

酒だが、私はニュージーランドの「ホワイトヘブン」という白ワインを頼んだ。「白い天国」すごい名前だ。

鶏肉では「脂肪肝」というのがある。これもおいしい。

医者の方が脂肪肝と聞くと人間の肝臓病になる。

これを直す食材の一つに鶏のささ身肉がある。

 

仙台で、おいしい料理と酒を飲みながら、豊かな宵が過ぎていった。

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