アウトバックステーキハウス

2013/05/25 6:50 に 松本リサ が投稿
急成長しているので有名なアウトバックステーキハウスのヒューストン店に行った。ステーキメニューは、リブアイ、テンダーロイン、ストリップロイン、ポーターハウスといった、ごく一般的なハイクラスの部位のステーキである。実にオーソドックスなステーキメニューである。米国のステーキチェーンの「ミスターステーキ」のボールチップ(腿部位)をうまくポーションカットをして、低価格のステーキメニューにする、といったことは、アウトバックでは無い。このほかに一般的なローストビーフ、ラムがある

このステーキハウスの特徴は、肉の味であるとか、低価格、フレンドリーなサービスなど、いろいろ言われているが、ステーキ用の牛肉から見ると、特徴的なところがある。それは、グレードのそれほど高くない牛肉素材を、エージングして、ある程度柔らかく、旨味を出して提供していることである。

米国の牛肉のグレードは、プライムが最も上で、量は少ない、あとは「チョイス」という、ごく一般的に流通しているものである。この下にもいくつもの段階があるが、そのほとんどは加工用で使われる。テーブルミートで一般的に使われるチョイスのは、3段階程度に評価されていて、一番上は「トップチョイス」などと呼ばれている。

アウトバックステーキハウスが使っているのは、トップチョイスではなく、食べた感じでは、チョイスのミドルか、低いグレードになる。しかし、きちんと熟成をしているので、味のいいものになっている。


いくつかの情報と、そして著者が見たのを総合して、ここの牛肉のシステムを解説してみる。まず、素材の牛肉は、ボックスミートと言って、部位別に箱詰めしている原料で、アウトバックに供給しているポーションカットセンターがパッカーから買う。ポーションカットセンターと言うのは、肉の原料を仕入れ、切り身にしたり、味付けをしたり、熟成をレストランのために代行したりする。

ポーションカットセンターは比較的小型の企業が多く、都市ごとに何社もあるといった形で地域密着型の企業がほとんどである。アウトバックステーキハウスの場合も、店のある地域のパッカーを使うのだが、加工ラインは専用のものを使う、あるいは、他の一般に販売するものとは別の棟で処理するようになっている。別扱いになっているのだ。

素材の牛肉は、ドライエージングされる。

エージングには2通りの方法があり、ドライエージングと、ウエットエージングである。ドライエージングは、肉を裸のまま冷蔵庫に置き、空気に触れさせながら熟成をする。ウエットエージングは、真空パックのまま冷蔵庫の中で熟成をする。どちらの場合も冷蔵庫の温度は摂氏0度程度である。

ドライとウエットがどう違うかだが、ドライの場合は、空気に触れさせるので、肉の水分が飛び、歩留まりが悪くなる。しかし、熟成のグレードは非常にいい。ポーターハウスステーキにする骨付きのロインを3週間ドライエージングさせると、表面をかびがおおい、肉はシュリンクし、これを切り身にすると3割はなくなってしまう。さらに、もし骨をとってしまったら、半分近くにもなってしまうだろう。しかし、そのステーキは、米国人的に言うならば「ビューティフル」である。アウトバックステーキハウスではこの方法でエージングしている。低価格の牛肉素材を、エージングでグレードを上げているのだ。

ドライエージングをするには、バクテリア対策を徹底しなければならない。肉を裸で長時間置くわけだから、バクテリアが多い、汚い冷蔵庫だったら、エージングどころか、肉が腐ってしまう。クリーンな冷蔵庫で保管をしなければならないのだ。パッカーにアウトバックの分だけ別にしてもらっているのは、ここら辺のこともあるのだろう。

ドライエージングは、もちろんブロックのまま行う。3週間程度やるとかなり良くなるのだが、歩留まりと、保管のコストは高くなる。アウトバックのステーキを食べた感覚では、多分2週間程度の熟成だろうと思われた。

熟成された肉は、ローストビーフ用はブロックで、ステーキ用はポーションカットされる。ポーションカットをされたものは、冷凍されて店に運ばれるものと、チルドのまま店に運ばれるものと、2通りあるということだ。

理想的にはチルドのほうがいいのだが、熟成はすでに済んでいるのだから、チルドの切り身を店で下手に管理するよりも、アイテムによっては冷凍のほうがいいのかもしれない。


アウトバックのこの方式をもし日本でやろうとすると、どのようにしたらいいのかであるが、まず、エージングのシステムを開発しなければならない。使う牛肉のグレードは、もちろん和牛などではなく、低価格のホルス、肉用牛である。原料は部位別にすでに流通しているものを使えばいい。国産でなくても、輸入牛肉でもいい。輸入のチルドビーフを使う場合、日本に船で来るまでに、船の中でウエットエージングをしてしまっているので、これをさらにドライエージングさせたら問題がでるかもしれない。航空便で運ばれてきたチルドビーフなら問題はないだろう。アウトバックと同じことになるのだから。

次は、冷蔵庫である。クリーンなエージング専用の冷蔵庫を用意しなければならない。他の保管物と一緒だったり、ドアの開け締めなどで温度変化が激しいのは良くない。米国では旧式の木製の冷蔵庫で、木炭やおがくずなどで、湿度や臭いのコントロールをしているところがあり、エージングはこのほうがうまく行く。また、冷蔵庫に入れる空気にはフィルターを通し、クリーンにする必要もある。

そして、エージングを終わったブロック肉は、そのまま、あるいはポーションカットをして、店にデリバリーする。


アウトバックでラムも食べてみた。ラムというのは牛肉と違って、鮮度が問題になる。冷凍のラムを解凍して、切り身にし、2〜3日してしまってから調理をすると、マトン臭くなる。この現象を「ラムがマトン化」してしまったと著者は言っているのだが、ラムは、鮮度のいい状態で調理をしなければならない。

アウトバックのラムは、ラックの7本骨のついたブロックのままを、グリル焼きにしてある。鮮度はよく、ラムの素晴らしい香りのするものだった。原料は、価格、カット、大きさ、味などから判断して、オーストラリアかニュージーランドのものだが、冷凍で入れ、解凍してからすぐに焼いていることがわかる。これがラムをおいしく調理する方法である。下手にチルドをいれて、鮮度を低下させてしまうよりも、冷凍を使うほうが、ラムの場合はいい。


牛肉はエージングシステムを開発しなければならないが、アウトバックの様な繁盛店を作るためのもう一つの問題はサービスである。米国で流行っているレストランに共通しているのは、味はもちろんおいしいことだが、同

時に、サービスのフレンドリーさである。例えば今回のアウトバックステーキハウスで、著者は同行の方のワインをあれこれ選んでいて、カリフォルニア産とオーストラリア産の2つのホワイトワインを迷ったら、ウエイト

レスはすかさず「試飲してみますか?」と聞いてきた。アウトバックは「オーストラリア」をコンセプトにしているためか、オーストラリアワインのほうが良かったのだが。このあと赤ワインを指定したら、言いもしないの

に、試飲のグラスを持ってきた。英語の分かりにくい日本人のテーブルで、メニューの説明を何とかわかってもらおうと、一生懸命に、嫌な顔などまったくせず、笑顔で対応している。

基本的なマニュアルはあるのだろうが、杓子定規的なところはまったく無い。その場その場で顧客を楽しませようと、臨機応変に対応をしている。エンターテイメント、スピーディ、その上に少人数でこなしているところも

ある。


柴田書店「月刊食堂」98/6月号より
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