安全、ナチュラル志向の時代の食肉

2013/05/24 18:26 に 松本リサ が投稿
この流れは、農産物の青果から始まってきた。それが食肉の方向にもなり、食肉の素材と、それを使った加工品にまで及んできている。安全でナチュラルな食べ物を食べることは、少なくとも添加物が入ったものを食べるよりは体にいい。保存性が悪いという欠点が出てくるが、これは管理を厳しくするしかない。首都圏に住んでいると、空気は悪いし、通勤時間は長く酷だし、人だらけと混雑と仕事のストレスはたまるしで体に悪いことだらけなのだが、だからこそ食べ物ぐらいは体によさそうなもの、となって自然志向のブームになっている。

オーガニック
食肉の流れはいくつかのパターンに分けられる。まず、ブームの頂点はオーガニックだろう。食肉のオーガニックでは、米国コロラドのコールマンナチュラルミートが歴史がある。米国内でも最も老舗で、多くのナチュラル対応スーパーや小売店でコールマンが扱われている。日本にも量的には多くはないものの、牛肉自由化以来長く安定的に輸入されている。これに加えて最近は米国各社からオーガニック食肉の売り込みが活発になってきている。たとえばアイオワにあるブッシュマン・オルガニックフーズでは、以前からオーガニックの小麦やコーンを日本にいれてきており、醤油などの原料として使われてきているが、最近はオーガニックのチキンや合鴨の売り込みを始めている。規模的には小さいレベルだが、日本語の達者なセールス担当者が、地味でまじめな営業活動を行っており、これからの活躍が楽しみである。

中堅加工品メーカーの滝沢ハムでは、98/5月から、カナダのオーガニックポークの輸入販売を本格的に開始した。カナダの認証団体の一つであるNOQAPが認定した豚肉で、エサの90%が有機栽培によるもので、飼料に含まれるミネラルは100%自然の物であるなどの基準がある。飼料以外にも飼育方法、食肉処理、カット処理までNOQAPのマニュアルに基づき行われている。アミノ酸が通常の豚肉の2〜3倍あるのが特徴。

徳島県のイシイフーズでは、98/2月からオーガニック鶏肉の生産を始めている。飼育するのはフランスの地鶏系品種「プレノアール」。体重2.7〜2.8キロの出荷基準に成長するまでに、ブロイラーより約30日長い95日前後が必要。抗生物質は投与せず、オーガニック農業運動国際連盟(IFOAM)の基準をパスした有機飼料だけを使い、ストレスを与えずに飼育する。契約栽培する飼料を使うことや飼育期間の長さから、生産コストは通常のブロイラーの2.5倍程度になる。

オーガニックで問題なのは、認証である。認証団体とその基準がこれからどのようになっていくのか、認証者の育成、米国や他の国との調整など、消費者が納得の行く認証システムになるまでにまだかなり時間がかかりそうだ。そんな中で、地方でも認証団体が生まれ始めており、九州・山口では初めての民間団体「オーガニック認証協会」(仮称)が98年秋、熊本市に誕生する。認証された農畜産物には「認証マーク」を貼って出荷する。


安全なチキン
VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)に汚染された輸入鶏肉の問題が出てから、特にチキンに対して心配感が出、これに対応して「無投薬」というキーワードが出てきている。VREは、食鳥の増体促進用の飼料添加物で、院内感染の特効薬の抗生物質、バンコマイシンと化学構造が似ているアボパルシンが原因で出現したといわれている。農水省は97年3月に飼料安全法の指定からアボパルシンを取り消しており、以後、国内の生産現場では使用されていない。また、飼料安全法では、出荷直前の7日間に抗生物質などの薬剤を使ってはいけないと定めているが、これよりも大幅に「無薬期間」を長くしたり、全く無くしたチキンを生産するところが出てきている。

鹿児島県のマルイ農協では、飼育過程で抗生物質や合成抗菌剤などを全く使わないブロイラー「マルイ元気鶏」を全国に販売している。ひよこの段階から出荷までの56日間、薬剤を投与せず育てて生産する。飼料の改良や鶏舎の衛生管理を徹底することで無投薬化を実現した。佐賀県で高品質鶏「三瀬鶏」を生産しているヨコオフーズでも、無投薬チキンを生産している。生産からと鳥処理まで徹底した衛生管理をしており、さらに加工品まで製造をしている。岐阜県養鶏試験場では、ブロイラーをケージ飼育する新飼育システムの試験を進めている。ケージ飼いのため鶏体とふん尿が分離されることから鶏舎内環境が改善され、鶏病予防対策としても期待される。岐阜アグリフーズでは、寄生虫のコクシジウムを予防するため、人の健康に無害であるばかりか有効だといわれる微生物群(EM)を使った。衛生管理で病原菌締め出し、鶏の飼育密度を3.3平方メートルあたり40羽から45羽へと1〜2割減らし、出荷から新しいひなを入れる期間も伸ばして、その間は病原菌締め出し作業を徹底した。

チキンについては、SE(サルモネラ・エンティリティディス)という非常に強力なサルモネラ菌が卵と一緒になって問題になっている。サルモネラは細菌による食中毒のトップで、安全なチキンを使うことはフードサービスでの大きな流れになってきている。しかしながらそのために薬剤を使うことは「無添加」「無投薬」の流れと逆になり、できない。薬を今までよりも使わないで、安全にするという難しいことをやらなければならなくなってきているわけである。そのために、環境対策、衛生対策などで対応してきている。鶏のストレスをなくし、クリーンな環境で飼育することによって、伝染性のバクテリアをなくし、肉そのものも美味しくしようというのである。


SPFポーク
豚肉では大きな流れが2つあって、一つは「黒豚」に代表される「高品質、高級」志向、もう一つは安全志向のSPFポークである。SPFポークは豚の代表的な病気をなくすために、無菌にほとんど近い状態で分娩し、クリーンな環境で育成する。クリーンな環境を維持すれば、薬もいらないし、育ちもいい、ということになる。そのかわりクリーンな環境を維持するためのコストがかかることにはなる。このSPFポークを採用するフードサービスのゆっくりとした大きな流れが数年前から始まっている。

ワタミフードサービスではSPFポークを、安心・安全にこだわったメニューの一環として「自然豚のヒレ串カツ」で使っている。とんかつ専門店の「浜勝」では、十年前からSPFポークを使い、メニューに「特選」と明記し、一般豚と区別している。味と安全性を追求した結果、柔らかく、こくのあるSPFポークにたどりついた。鹿児島から月間約十トンを調達している。豚カツの「和幸」では、米国産のSPFポークを使っている。SPFポークは、住商飼料畜産、伊藤忠飼料、そして全農経済連系統と3つの流れがあるが、それぞれ協会などを造り、普及に努めている。


海外開発
フードサービスで安全、ナチュラル志向の食肉を、安定的に、なおかつ大量に調達するためには、日本国内だけでは対応できない面がある。日本のフードサービスの品質規格は、味、色、形、重量、季節性で品質が変わらない、欠品しない、など、非常に厳しい。特にナチュラル志向の牛肉にこれを要求すると、集荷できなくなる。ナチュラルということは、フィードロットで工業的に造るわけには行かなくなるので、同じものを大量に集めようとすると、コストが上がることにもなる。そこで海外からの調達ということになる。特にオーストラリアでは、土地が広く、安い。ナチュラル志向の牛を飼育するのには広い土地が必要で、グラスフェッドビーフ1頭を飼育するためには、2千坪は必要とされている。この環境でナチュラル志向のビーフを低価格で作る流れである。

モスフードサービスでは、豪州の人工肥料無使用の「ナチュラルビーフ」を使っている。スーパーのジャスコでは、オーストラリアのタスマニアの直営牧場で生産、輸入販売している「タスマニアビーフ」がこのほど、タスマニア州政府から「成長ホルモンと抗生物質を使用していない」ことを証明する品質保証を受けた。

屠畜段階での安全性を打ち出す流れもある。日本ハムでは自社のブランド牛肉「大麦牛」を処理加工する直営のオーストラリアのオーキー社で、HACCPを導入、安全衛生管理の実施と、食道・直腸結紮などを実施、細菌、抗生物質、抗菌剤、残留農薬など毎日モニタリングを実施。作業後の洗浄、消毒に8時間をかけるなどの安全衛生管理が行われている。ニュージーランドの屠畜でも、早くから品質管理のISO9002やHACCPを導入している。

柴田書店「月刊食堂」1998年11月号
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