安全、ナチュラル志向のミンチ製品、メニュー

2013/05/25 16:18 に 松本リサ が投稿
ハンバーグ、ソーセージ、ミートボールなどのひき肉を使った食肉加工品は、消費者の間では「中に何が入っているのかわからない」という不安感、不信感がある、これを打破して、安全、安心感のある加工品、メニューを作りだすところが増えてきている。

ひき肉製品はメーカーにとって経営を安定化させるために重要なものである。ひき肉製品で売れるものを持っていると、端材がすべて利益に変わるからである。ハム、ソーセージメーカーは、売れるソーセージやハンバーグを作れれば、安定した収入が確保できるので、この商品開発にしのぎを削っている。

ひき肉製品の安全志向に対応して、各メーカーはどうしているかというと、まず、添加物を無くしてきている。最も使われていた代表的な添加物は、リン酸塩や亜硝酸塩である。リン酸塩は肉の保水性を高めるので、歩留まりが良くなるし、食感が肉らしい弾力のあるものになる。亜硝酸塩は、肉の獣臭さを無くしたり、発色を良くしたりする。これらを使わないと、肉の食感がぐちゃっとしたり、色が悪くなったりするので、いろいろな工夫が行われている。最もナチュラルな工夫の一つは、原料肉の鮮度を良くするということである。特に画期的なのは「温屠体」である。

普通、豚を肉にするには、屠畜した後丸一日冷却をし、その後部位別にカットをする。豚肉のおいしさは屠畜後5日ぐらいが良く、あまり屠畜直後だと味が出ていない。ところが、ソーセージなどにひき肉加工品にするには、新しいほどいい。鮮度がいいと、肉に弾力があり、保水性もいいので、リン酸塩を使う必要がないし、結着性もあるので、卵や蛋白製品などの余計な結着材もいらない。卵も結着材も、アトピー、アレルギーの元になることがわかっている。そこで最も鮮度のいい状態を追及したのが温屠体である。

温屠体は、豚を屠畜した後、すぐに脱骨をして肉だけにして、数時間以内にソーセージなどに加工をしてしまう。この方法で生産したソーセージは、アトピー、アレルギーにもかなり対応でき、小売りルートで、生協や消費者クラブなどに流れているが、味も良く、評判である。しかし、温屠体で生産するには、屠場との交渉などなかなか許可が出ないことが多く、まだ一部の小規模メーカーに限られている。


肉の原料から安全を考えるには、その肉の飼育まで遡らなければならない。豚肉の原料では、SPFや、ナチュラルの飼育した豚を利用することである。SPFポークは大きく伸びてきており、日本でも、米国産でも手に入る。ナチュラル飼育のポークは、広大な土地を使って、外の汚染された環境が中に入らないようにして、その土地の中心部だけに豚の飼育場を作り、クリーンな環境で飼育する方法である。これは米国で行われている方法で、これならばSPFの親豚生産のように帝王切開手術が出来るような特別な施設や費用はいらない。但し、広大な土地が必要なので、日本では難しい。


牛肉での例はオーガニックビーフがある。オーガニックビーフを作るには、化学物質を何年も使ったことが無く、しかも外部からの影響の無い広い土地を使って生産をする。

現在オーガニックビーフは2種類あり、一つは米国の「コールマンビーフ」に代表されるグレンフェッドである。オーガニックのグレンフェッドを作るためには、牛に与える餌がすべてオーガニックでなければならない。コーン、麦などの穀物や、牧草に至るまで全てである。そのために価格は高くなる。しかし、オーガニックのニーズが大きくなってきているので、米国内では人気で、日本への輸入も安定して入っている。1頭のすべての部位を契約で入れており、ロイン系などステーキや焼き肉などに使える部位と、細切れやハンバーグにする部位を分けて、ハンバーグは日本国内で加工をしている。このハンバーグは一部のフードサービス企業で以前から使われてきている。

もう一つのオーガニックビーフは、ニュージーランド産で、「トップハット」ブランドで数年前から日本にハンバーグで入ってきている。これは、ニュージーランドの数件のオーガニック牛生産者と契約をして、完全に保証できる牛を確保し、屠畜した牛肉のうち、ロイン系は国内のオーガニックビーフのマーケットに出し、その他の部位を使ってハンバーグに加工をした物を冷凍で日本に入れているものである。

ニュージーランド産は完全にグラスフェッドで、穀物を一切与えていない。全く自然のままの草原で育てている。そのために、価格的には安い。グラスフェッドというと「臭いのではないか?」となるが、決してそんなことはなく、実に自然な牛肉の味がする。ステーキにしたら多少は硬いが、ハンバーグにしたらもちろん軟らかい。


牛肉の原料には一般的にカウミートや牛正肉が使われる。価格は安いが、臭みが時々あったりする。日本の一般的なハンバーグでは豚肉や植物蛋白を入れるのでこれらでマスキングされて問題にはならないが、牛肉の比率の多い物や、ハンバーガーパティなどになると、牛肉原料素材を考えなくてはならない。牛の挽き材で高レベルのものは「ホールマッスルトリミング」といって、端材ではなく、腕などの肉をブロックのまま凍結したものである。その次に一般的なトリミングで、これもAクラス、Bクラスや、脂肪率によって、ランキングがある。グレンフェッドとグラスフェッド、チルドとフローズンがそれぞれある。これらの下にカウミートなどがある。

最近輸入のチルドビーフを使ってハンバーガーを日本国内で生産するところもある。鮮度のいい状態で常に加工できるのならいいが、いくらチルドでも鮮度が落ちてしまったら何にもならない。さらに、チルドのまま店までデリバリーをする場合は、店での品質管理が少しでも狂ったらかえって味の悪いメニューを出すことになってしまう。実際にこれでうまく行かなかった実例もある。


ハンバーグにするには副材料が必要で、塩、パン粉、卵(液卵)、オニオン、などが主要なものである。塩は、化学塩ではなく、天然塩を使うように次第になってきている。塩は国内ではやっと自由化になり、天然の高品質の塩がこれから増えてくるだろう。既に今までも大島の塩、赤穂の塩、伯方の塩など、一般的なブランドに育ってきている天然塩がある。これらを高品質の加工肉にも使うようになってきている。しかし問題は価格で、まだまだ高い。

天然塩は、岩塩と、海水から取る塩があるが、人間の体からいうと海の塩がいいという。人間を始め、生物は海から出て来たのだから。海水からの塩にはミネラル、ニガリが多く含まれていて、このニガリだけを抽出して健康食品にしているところもある。実際には一部の病気治療に使って効果が上がっているそうだ、しかし、薬としては販売できない。

塩の輸入自由化は5年先だ。「深層海水」というのがあり、数百メートルもの深いところにある海水は非常にクリーンで、これを食品に利用しようという研究が進んでいる。日本では四国で進めているそうだが、価格的には高く付く。インドネシアのバリ島の一部の海岸で、海流の関係からこの深層海水が突然水面で出ているところがあって、この海水を原料に、天日で塩を実験的に作りだしている日本人もいる。こういった塩が自由化になって入れられるようになったら、塩もバラエティに富んでくる。牛に食べさせる畜産向けの塩は既に海外メーカーから売り込みが来ている。販売先を限れば、年間百トン以内なら許可申請して輸入できる可能性がある。


オニオンは、低価格製品だとブランチングしたものを使うが、風味のいいのはソテーした物である。ソテーは「50%ソテー」「70%ソテー」と、ソテー度によってランクがあり、ソテーするほど高いが、風味は出て来る。オニオンのナチュラル性は、原料のオニオンと、ソテーに使う油にある。オニオンは、減農薬、無農薬、有機、そして認定されたオーガニックなどに分けられる。油は低価格のパーム油などがよく使われるが、ヒマワリ油とか、ブームのオリーブオイルを使ったり、これらを混ぜたりといった工夫も出来るだろう。

卵はフレッシュの液卵を使うのがいいが、その卵にこだわりを持たすことは出来る。特殊卵が売れているが、個人レストランレベルならば高いが使えるかも知れない。パン粉も高品質かつ鮮度のいいものを使えば味も良くなる。


原料肉をよくしたり、こだわりを持たせ、塩を天然塩にし、副材料の一つ一つにこだわる、といった、ソーセージ、ハンバーグは、これからフードサービス業が店の独特のメニューとして真剣に考えるものである。「SPFポークを原料に、大島の塩と、挽き立てのブラックペパーを使った、荒びきナチュラルソーセージ」とか、「肉はオーガニックビーフ、オニオンは有機生産、パン粉は当ホテルのベーカリー製を使った、100%ナチュラルビーフハンバーグ」などというメニューが売れることになる。

先日恵比寿ガーデンプレイスのウエスティンホテル1階のレストランでハンバーガーを頼んだら、牛肉ミンチだけを固めて焼いたものが出て来て、非常に美味かった。O-157が出て来るまでは、焼き方もレアーやミディアムと指定できたのがそのころの米国の「グラウンドビーフステーキ」だった。自動車のフォード2世の大好物はサーロインステーキの切り身をそのまま挽いてハンバーガーにしたものだったそうだが、よくわかる。これも一つのこだわりである。

柴田書店「月刊食堂」97/8月号より
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