A=エージング(熟成)

2013/05/24 1:43 に 松本リサ が投稿

熟成とは


食肉のおいしさには3つの物がある。「軟らかさ」「旨味」「風味」である。これらを決定するものに、脂肪の味があるし、肉そのものも重要だし、骨や筋も重要である。そして、それらがいくら良くても、熟成されていなければ、なんの意味もなさない。

「さっきまでぴちぴちしていた魚」ならおいしいが、「さっき屠殺したばかりの牛肉」を食べたらどうなるか、硬くてとてもではないが食べられない。屠殺直後の牛肉というのは、死後硬直といって、筋肉の鎖がしっかりと張っているために、とても硬いのである。

今は捕れないが、昔、鯨をとっていたころに、捕鯨船の上で鯨を最もおいしく食べるためには、赤身の肉を30センチぐらいの大きさに角切りにして、それに縄を付けて船の窓の外に1ヵ月位吊るしておくそうである。

1ヵ月後に取り上げて、外側の黒く変色した部分をトリミングし、中の肉を食べるとじつに軟らかくておいしいということである。鯨は魚ではなくて哺乳類だから、このようにする。これが熟成なのである。


牛肉の熟成はスーパーマーケットならば10〜21日間が適当



「牛肉は腐る寸前がうまい」と昔から言っているが、これが熟成である。

牛肉は、屠殺直後には「死後硬直」で硬い状態だが、約1週間位で死後硬直がとけて、熟成が始まる。これは温度が0℃の状態だが。

その後熟成は徐々に進み、10日目位に食べ頃になってくる。この時点で熟成の70〜80%程度が出来上がっていると言われるが、正確に測定をする方法は今のところ無いようである。しかし、食べ頃になってきているのは、試食をすることによって確認できる。

その後も熟成は進んでいき、大体屠殺後3週間ぐらいでほぼ終了する。この後さらに置いておくとどうなるかと言うと、熟成は止らずに、さらに少しずつ進んでいく。しかし、これ以上置いておくと、肉の表面が変色していくし、肉そのものもだんだん黒くなっていく。

熟成は進んでいくのだから、肉はさらに軟らかく、旨味も出てくるので、高級なレストランなどでは、「6週間熟成」などをやっているところもある。

そんな牛肉を使ったステーキは、それこそ箸で切れるほど軟らかいものになっている。しかし、歩留りが悪くなっていくのと、それだけ寝かせるためには、冷蔵庫とか、金利もかかるので、コストも高くなる。

スーパーマーケットで販売する牛肉の熟成は、肉の色が良い状態で、しかも熟成ができている10〜21日というのが適当な期間であろう。米国のスーパーマーケットで熟成をしているある企業のバイヤーに聞いたら、そこはバイイングしてから2週間バックルームの冷蔵庫に寝かせてから販売すると言っていた。


豚肉と鶏肉の熟成期間は



牛肉以外の他の肉も同じメカニズムだが、期間が違う。豚肉は一般的には3日間位、しかし、非常にクリーンな状態で3週間熟成をしたものを開発したところがあるが、この豚肉はうまい、軟らかい。こんなことを見ると、今までの熟成の常識がなくなってしまうが、これからの技術はそういったことを可能にしていくだろう。

鶏肉は12〜24時間が良いとされている。もも肉をしっとりとジューシーにするために熟成をする方式がここ数年の間に行われてきているが、好評のようである。24時間より先はどうなるかというと、クリーンな状態で管理していれば、熟成の良い状態がある程度長続きする。しかし、店舗の管理も含めてサニテーションが良くないと鮮度劣化が早くなってしまい、味が急速に落ちてしまうことになる。鶏肉の場合は特にバクテリアの影響を受けるので、サプライヤー、ロジスティクス、店舗と、すべての管理を完璧にしないと熟成の効果が出ないし、逆に鮮度劣化させることになってしまうので注意が必要である。


熟成は、バクテリア対策と、温度管理が重要



食肉を冷蔵庫の中に置いておくということは、とくに牛肉は長期間置いておくので、バクテリア対策をしっかりしておかなければならない。

熟成のスタートの時点で、バクテリアが肉にたくさんついていたら、熟成どころか「腐敗」していってしまう。熟成がそろそろ終わって、軟らかくなってきたかな、とのぞいて見たら、腐っていた、などとなってしまう。そのためにも、と畜処理をしっかりしないといけない。

これから熟成の開発を進めるのならば、まず、と畜処理でしっかり枝肉を洗い、同時にと畜処理場を徹底的にきれいにすることが重要である。まず「クレンリネス」からである。温度管理についても、0℃の安定したところで、しかもエアフィルターを付けた、クリーンな環境の冷蔵庫が必要である。


ニューヨーク「ロベル」の熟成



ニューヨークにある高級食肉専門店「ロベル」の熟成は有名である。ここはニューヨークやとなりのニュージャージーからも長距離のドライブをして買いに来るお金持ちのお客様が多い店で、価格は普通のスーパーマーケットの数倍はするところである。

以前にここで薄いストリップロインのステーキを2枚買ったら26ドルだった。このステーキをホテルに持って帰って、いつもこういう視察旅行には離さないスキレットという深めのホットプレートを使って焼いて食べたらじつにうまかった、和牛と同じである。

ここではバックルームの冷蔵庫で熟成をしているし、通りに面したウインドーでは、外から熟成をしてから陳列をしているストリップロインなどのブロック肉が見える。

そのブロックだが、背脂肪の所にナイフで何本か切り込みを入れてあるのだが、これは、お客様がここで熟成状態がどうかその「フレーバー」をかぎ、それでどれを買うか決めるのである。こういうお客様は2枚や3枚買うことはしないでブロックごと買う。これほど熟成を大事にしているのである。
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